Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
地球温暖化を逆転させる「ドローダウン」
「気候変動を止めるにはどうしたらいいと思う?」 そう聞かれたら、たぶん一般的な答えは「石油や石炭など化石燃料を燃やすのをやめて、再生可能エネルギーにする」でしょうか。
米国の環境保護活動家/起業家であるポール・ホーケン氏は、さまざまな専門家を集めて幅広い分野から100の解決策を特定し、それぞれの二酸化炭素削減量や正味コストを算出する「プロジェクト・ドローダウン」を立ち上げました。ドローダウンというのは、ここでは「大気中の炭素量を減らすこと」を意味します。
2017年に出されたその報告書”Drawdown: The Most Comprehensive Plan Ever Proposed to Reverse Global Warming”は、日本語でも2020年12月に『ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』(山と渓谷社)として出版され、大きな話題になっています。
温室効果ガスの削減量(二酸化炭素換算)で見ると、第1位になった解決策は、意外にもエネルギー分野ではなく、冷蔵庫やエアコンの「冷媒」でした。以前冷媒として使われていたフロンガスはオゾン層を破壊することがわかり、1987年の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」で全世界で規制されました。このこと自体は地球環境保護の成功例と言われてきたのですが、代わりに開発された「代替フロン」(ハイドロフルオロカーボン[HFC]等)には、二酸化炭素の1000~9000倍の温室効果があることが後にわかりました。モントリオール議定書の「キガリ改正」(2016年)によりHFCを段階的に廃止していくことになったのですが、すでに製品中にあるHFCを大気中に放出することなく、適切に処理しなければなりません。
第2位は「陸上風力発電」、そして第8位「ソーラーファーム」と第10位「屋上ソーラー」は、予想どおりのエネルギー分野の解決策です。ところが、それに続く第3位に「食料廃棄の削減」、そして第4位「植物性食品を中心にした食生活」、さらに第9位に「シルボパスチャー(林間放牧)」と、食に関する解決策が3つ、トップ10入りしています。
さらに目を引くのが、第6位「女児の教育機会」と第7位「家族計画」です。WHOの報告によれば、2019年に世界の妊娠可能な女性19億人(15~49歳)のうち、11億人が家族計画の必要性がありますが、そのうち2億7000万人は避妊をしていないとのことです。環境への影響を増減させる要因は何かを表す「IPAT」の式というものがあるのですが、
Impact(インパクト)=Population(人口)×Affluence(豊かさ)×Technology(技術)
人口が増えれば増えるほど環境への影響が増します。逆に、女性の健康や教育機会を確保しながらその家族に最適な子どもの数になれば、環境への影響も減らせるわけです。
地球温暖化の問題を解決するには、あらゆる角度から考え直す必要があることがよくわかります。
(五頭美知/翻訳者)
※書籍の発売日が間違っていたので訂正しました(2021年9月30日)。
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