「事業に組み込む」って何て言う? 動詞としてのAnchor

「○○を事業に組み込む」を英語に訳す時、よく使われるのはintegrateやincorporateといった単語です。ニュアンスの違いはありますが、いずれも「組み込む、統合する」といった意味合いで使えます。特にintegrateは、ESGインテグレーションなど、投資などの分野では日本語でも用語として定着しています。

このように、一般によく使用されるコロケーション(言葉の組み合わせ)を押さえておくことはもちろん大切ですが、一方で、少し違った表現を用いることで、インパクトのあるメッセージを伝えられることがあります。

その一例が、Anchorです。

もともとは、船を止める「錨(いかり)」という意味のAnchorですが、動詞としては「しっかりと固定する、支える」といった意味もあります。この動詞を使って、anchor A in Bのようにすると、「AをBに組み込む」というニュアンスを表すことができるのです。

実際の例を見てみます。

WHOのウェブサイトには、次のような文があります。

anchor health in the global 2030 sustainable development agenda
(持続可能な開発に関する世界的な2030年目標に健康を組み入れる)

上記のthe global 2030 sustainable development agendaはSDGsを指すものですが、こちらに書かれている通り、SDGsには健康に関する目標3「すべての人に健康と福祉を」が含まれています。

またデンマークの電力会社Ørstedのサステナビリティレポートには、次のようにあります。

Anchor prioritized sustainability themes in our management and governance.
(優先的サステナビリティ課題を当社の経営およびガバナンスに組み込む)

同社では、マテリアリティ(重要課題)をprioritized sustainability themesを表現しており、その特定プロセスで上記のようにanchorを用いています。

もとの意味が「いかり」であることからイメージできるように、anchorを使うと、「動かないようにしっかりと据える」というニュアンスを表現できます。したがって、「重要課題を事業にしっかりと組み込む」といった用例では、firmlyなどの副詞を使わなくても、anchorだけで「しっかりと」のニュアンスを効果的に伝えられます。

anchorのように、一つの単語(または短いフレーズ)で多くを伝えられる言葉を使えば、文を簡潔にできるばかりでなく、インパクトを出して読者の関心を引きつけることもできます。クライアントの大切なメッセージを伝える翻訳者として、インパクトのある表現をご提案できるように、今後もこうした言葉を自分の中に蓄積していきたいと思います。

※英文に続く( )内の和文はすべて試訳です。

Photo by Chris Lawton on Unsplash

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