Translators in Sustainability
いま考えたいPrimary Health Careの意義
新型コロナウイルスのパンデミックは、自分が住む地域の医療への認識を新たにする機会となりました。なかでも、健康診断からワクチン接種、病気やケガの治療など、日ごろから頼ることが多いかかりつけ医は、何かあったらまず相談できる窓口として心強い存在です。
今回のブログでは、そうしたかかりつけ医にも通じる概念であるPrimary Health Care(PHC)について考えます。
世界保健機関(WHO)は、PHCを次のように定義しています:
Primary health care is a whole-of-society approach to health and well-being centred on the needs and preferences of individuals, families and communities.
(試訳)プライマリ・ヘルス・ケアは、個人や家族、コミュニティのニーズや優先度に沿って、社会全体で健康と福祉を実現するアプローチである。
PHCの起源をたどると、1978年の国際会議で定められた「2000年までにすべての人に健康を」という目標達成のための戦略として打ち出されたのが始まりとされています。当初の考え方から現在のWHOによる位置付けを詳しくなぞってみると、いくつか重要なキーワードが見えてきます。
●Social justice and equity(社会正義と公平)
「すべての人が到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有する」と定める世界人権宣言に根差し、あらゆる人が公平にアクセスできるものでなければならない。SDGsでも言及されているユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に必要な基盤としてもPHCが位置付けられている。
●Community(コミュニティ)
個人やコミュニティのニーズに沿った体制を実現するため、PHCでは、その計画段階から地域住民の主体的な参加が原則とされる。
●Multisectoral approach(セクター横断型アプローチ)
人の健康には、教育や経済、技術、環境面の要素も大きく影響するという考え方から、PHCにはさまざまなセクターを巻き込んだアプローチが必要とされる。
●Integrated health services(総合的な保健サービス)
PHCが目指すのは、健康増進や病気の予防、治療から緩和ケアまで個人の生涯にわたる健康ニーズに沿った医療から公衆衛生まで総合的な保健サービスの提供である。
現在、世界各地で新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいますが、そんな中、「ワクチン外交」や「ワクチンナショナリズム」など心配される動きもみられます。健康はすべての人に認められた基本的人権で、その実現のためには社会全体で取り組む必要があるというPHCの原則を今こそ改めて認識すべきときのように思います。
Photo by Arek Socha via Pixabay