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Race to the top:サステナブルな社会を目指す競争
先日ある翻訳をしていた時に、“Race to the top”というフレーズが目に留まりました。直訳すると、「頂点への競争」です。
“Race to the top”をフレーズ検索してみると、サステナビリティの文脈では次のようなものが見つかりました。
下記は、ロイターのある記事のタイトルです。
Benchmarking has started a race to the top on human rights reporting
(試訳:ベンチマークを通じて、人権分野の情報開示における「頂点への競争」が始まる)
また、サステナビリティに特化したメディアTriplePunditにも、このキーワードをタイトルに含む記事がありました。
The Race to Establish ESG Reporting Standards Must Be a Race to the Top
(試訳:ESGレポーティング基準の創設における競争は、「頂点への競争」でなければならない)
こうして使用事例を見ると、”Race to the top”は、「競争を通じて、全体としてより良い方向に向かう」というニュアンスであると推測できます。
それとは逆に、“Race to the bottom”という表現もあります。日本語では通常「底辺への競争」と訳されるこちらは、ネガティブな文脈で使われます。もともとは経済用語で、「規制緩和などにより、労働基準や自然環境などが最低水準へ向かうこと」と定義されています。
上記の定義をもとに「頂点への競争」を定義するとすれば、「規制の厳格化などにより、労働基準や自然環境などが最高水準へ向かうこと」と言えそうです。実際に、“Race to the top”は、各種規制や基準が厳格化する中で、それらを遵守しつつ、高みを目指して競争する、という文脈で使われることが多い印象を受けます。
TriplePunditの記事タイトルにもあるように、ESG基準が乱立しているという批判も聞かれますが、一方で、企業のサステナビリティへの関心が高まり、ポジティブな競争が生まれつつあるのも確かであると感じます。また、Better Alignment Projectなど、基準をまとめる動き(コンバージェンス)も出てきています。今後、各種基準がどのように集約され、どのような「頂点への競争」が生まれてくるのか、引き続き注意して見ていきたいと思います。
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