響く翻訳を目指して 「世界人権宣言」に学ぶ

2020 / 10 / 26 | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

翻訳には、唯一の絶対的な答えはありません。全く同じ原文でも、目的や読み手が違えば、訳文は変わってきます。
つまり、その文章の読者を具体的に想定して、目的をしっかりと理解した上でないと訳せない。それが翻訳の難しさであり、醍醐味であると日々感じています。

たとえば、1948年の国連総会で採択された「世界人権宣言」
すべての人間が生まれながらにして基本的人権を持っていることを初めて公式に認めた宣言です。子どもも大人も、読み書きができない人でも、ありとあらゆる人が知っておかないといけない文書と言えます。

その第1条の原文はこちら:

All human beings are born free and equal in dignity and rights. They are endowed with reason and conscience and should act towards one another in a spirit of brotherhood.

外務省の日本語訳:

すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心を授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

外務省の訳は、一字一句漏らさず、何がどううたわれているか、原文のニュアンスを可能なかぎり厳密に再現して伝える正確な訳です。一方で、難解な日本語表現も含まれるため、残念ながら我が家の小学三年生になる娘には理解できないようでした。

ためしに、こちらでもご紹介した谷川俊太郎さんによる「わかりやすい世界人権宣言」も読ませてみたところ、内容が分かり関心を持ったようです。

第1条の谷川訳:
みんな仲間だ
わたしたちはみな、生まれながらにして自由です。ひとりひとりがかけがえのない人間であり、その値打ちも同じです。だからたがいによく考え、助けあわねばなりません。

表現自体が平易ですし、漢字/かな使いからも、子どもでも読めるように配慮されています。
読み進めながら、身近な状況に落とし込んで理解しようとする娘の様子を目の当たりにして、自分で読んで理解できたからこそ、彼女にとって”自分には関係のない話”から、“私たち自身の話”になったのだと思いました。

誰に向けて、何のために伝えるのか。
その点を意識して翻訳するかどうかで、結果が大きく変わることを実感できた体験でした。

企業のサステナビリティ関連の情報を翻訳するときも、評価機関や専門家が読む内容であれば、評価基準となる指針に則した表現を使っているか、必要なデータが読み取りやすい表現になっているかといった点に注意する。
一般向けなら、その言語を母国語としない人たちも視野に入れて、できるだけ平易な表現にするなど、幅広い人々が身近に感じられるような工夫をする。

そうした配慮の行き届いた翻訳ができてはじめて、効果的な情報発信ができるのだと思います。そのことをしっかりと肝に銘じて、これからも日々の業務に取り組んでいきます。

Photo by Sasin Tipchai via Pixabay

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