Translators in Sustainability
大切なメッセージを身近な言葉に込めて
先日、南半球に住む友人から、こんなメッセージが届きました。
Hope all is good and safe at your bubble.
このbubbleという言葉は、ニュージーランドの新型コロナウイルスに関係する記事でよく目にする表現で、感染拡大を避けるために自宅などで共に自己隔離(self-isolation)をしている少数の人たちを指します。
以下は、ニュージーランド政府のAlert Level 4(警戒レベル4)に関する文書からの抜粋です(注:5月20日現在、ニュージーランドの警戒レベルは「2」に引き下げられています)。
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You can only see a small group of people
– The people you live with
– Your support workers
These people are in a bubble together
会うことができるのは、少数の人たちだけです。
・一緒に住んでいる人
・介助スタッフ
上記の人たちは、同じbubbleの中にいます。
(Simplified Easy Read – COVID-19 and Alert Level 4 information:2022年2月現在、こちらの一覧表からダウンロードできます)
You must stay 2 metres away from people who are not in your bubble.
同じbubbleの中にいない人とは、2メートルの距離をとるようにしてください。
(Easy Read description of Alert Level 4:2020年5月20日アクセス、2022年2月現在、確認できなくなりました)
(日本語は試訳)
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Bubbleという言葉から、シャボン玉の泡のようなイメージが頭に浮かびます。「泡の中には数名の人がいて、しっかりと外界から隔離されている。けれど、別の泡にぶつかればはじけてしまう。だから泡はそれぞれに離れていなければならない」。難しい専門用語ではなく、身近な言葉で大切なメッセージが的確に伝わる好例だと思います。
実は、上の二つの文書は、いずれもPeople First New Zealandという団体が作成したものです。学習障がいや知的障がいのある人々が自ら運営している団体で、障がいに関する情報発信や助言提供、研修などのほか、文書をわかりやすい平易な表現に「翻訳」する事業(Easy Read Translation service)も行っています。
団体のウェブサイトによれば、学習障がいのある人だけでなく、英語を母国語としない人や読み書きが苦手な人、高齢者などにもわかりやすい文書を心がけているとのこと。クライアントはニュージーランドの政府や自治体、障害者支援団体など多岐にわたります。
大切なメッセージを、平易な表現でしっかりと伝えるのは難しいものです。日々、言葉と向き合う翻訳者としても、読み手は誰なのか、専門用語や難解な表現を使いすぎていないか、同じことをもっと身近な言葉で言い表せないか、常に自問する姿勢を大事にしたいと、改めて思いました。