サプライヤーガイドライン ~目的地を明確に~

2020 / 3 / 3 | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

近年企業には、自社の事業にとどまらず、サプライチェーン全体でサステナビリティを推進することが求められるようになりました。
それにともない、サプライヤー向けにさまざまなガイドラインを策定している企業も増えています。

その項目には、事業内容に関係なく共通する点もみられ、例えば「児童労働、強制労働の禁止」、「職場での安全確保」、「環境への責任」、「法令遵守」は、たいていのガイドラインで必須条件として記載されています。

今回は、多々ある項目の中で、特にこうした必須条件の表現に注目してみたいと思います。

まずは、Nestle Responsible Sourcing Standardネスレ責任ある調達基準)より、児童労働に関する項目を見てみます:

(英文)In accordance with international labour standards, no person shall be employed under the age of 15 or under the age for completion of compulsory education,…
(和文)国際労働基準に従って、15歳未満、または義務教育終了年齢未満の労働者を雇用してはいけません

日英ともに、太字部分が「強制」のニュアンスを伝えています。
特に英文のshallは、契約書で義務を定める際に広く使われ、法的な強制力を意味する表現と捉えられるため、相当する和文表現「~してはいけません」と比べても、求める度合いがより明確に伝わります。

こちらのガイドラインでは、全体を通してshallが使われており、ネスレがサプライヤーに対して断固として譲らないラインを提示していることが分かります。

少し違う事例として、ユニリーバのUnilever Responsible Sourcing Policy責任ある調達方針)をご紹介します。

まずは本文中の一文から:

(英文)No worker is subject to any physical, sexual, psychological or verbal harassment, abuse or other form of intimidation.
(和文)いかなる従業員も、身体的、性的、心理的、あるいは言葉による迷惑行為、虐待あるいは他の形式の脅迫を一切受けません

太字部分を見ると、日英ともにネスレのように強制力の度合いを伝える表現にはなっておらず、よりシンプルな印象です。

ただし、こちらの調達方針では、その度合いごとにあらかじめ項目が次のように分類されています:

(英文)
SECTION 1 Contains our mandatory requirements.
SECTION 2 Contains the disclosure and reporting requirements.
SECTION 3 Contains continuous improvement guidelines and tips for implementation.
(和文)
セクションI 必須条件について説明しています。
セクションII 要件の開示と報告について記載しています。
セクションIII 継続的改善ガイドラインと実施のためのヒントについて記載しています。

またセクションIIについては、
We expect our suppliers to follow these requirements…
(サプライヤーが当該の条件に従うことを、当社は期待する)
と補足されており、セクションIの必須条件よりも強制力の弱い推奨項目がまとめられていることが分かります。

このように最初に項目を整理して、それぞれの強制力の度合いを明示しておくことで、ひとつひとつの項目の表現はシンプルになっています。

ご紹介したスタイルの他にも、必須条件にshallではなくmustを使ったり、Do not~のような命令形を使ったりしてトーンを調整したり、対象となるサプライヤーごとに項目を分けている(対一次サプライヤー/対仲介業者など)ガイドラインもありました。

大切なのは、誰に対して、何を、どの程度求めるのか、目的地をまず明確にすること。その上で、それを分かりやすく提示するための表現・スタイルを考えることだと思います。

国によっては、例えばshallなのかshouldなのかという一見些細な違いに思えることで、訴訟問題になる可能性もあります。

こういった文書の翻訳に際しては、そういうリスクも踏まえて、お客様の意思を確認しながら丁寧なご提案に努めていきます。

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