Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
海の中の異常気象
昨夏、欧州は二度も猛烈な熱波(Heatwave)に襲われ、インドやオーストラリアでも記録的な熱波が観測されました。近年、当たり前になってきた「異常気象」を心配に思いながら英文記事を読んでいたら、Marine heatwaveという言葉を見つけました。
IPCCが2019年9月に発表した『The Ocean and Cryosphere in a Changing Climate(変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書)』では、Marine heatwaveを以下のように定義しています。
Marine heatwave: A period of extreme warm near-sea surface temperature (SST) that persists for days to months and can extend up to thousands of kilometres.
海洋熱波:表面付近の海水温が極端に高い状態である期間。数日から数カ月続き、何千キロメートルにも及ぶことがある。(試訳)
最近では、2014~2016年に米国西海岸沖で発生した海洋熱波が有名です。2015年の夏から2016年の春にかけて、6万2000羽のウミガラスがカリフォルニアからアラスカの沿岸に瀕死または死亡した状態で打ち上げられましたが、この原因は海洋熱波だったと指摘されています。熱波のためにまず植物プランクトンが減少し、食物連鎖の各段階に影響がでて、ウミガラスの餌が減少したと考えられるのです。実際に死んだウミガラスの数は確認されたよりもはるかに多く、100万羽に上るだろうと推定されます。
海洋熱波は、通常と異なる気象パターンによって引き起こされるもので、自然変動によっても生じますが、地球温暖化の影響で発生頻度は高くなり、激しさも増すと考えられています(詳しくは米国海洋大気局(NOAA)のサイトもご参照ください)。気候変動が、極端な気象現象の生じる確率を高め、そのために異常なことが頻繁に起こる。今、陸地で目にしているのと同じことが、おそらく海の中でも起きているのです。私たちの知らないところで犠牲になっている海生生物が、ほかにもたくさんいるのかもしれません。
日ごろ、気候変動や気象の報道は気をつけて見るようにしていますが、陸の異常気象だけでなく、「海の中の異常気象」にも注目していきたいと思います。