Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
CHRB 2年連続トップ アディダスの人権への取り組み

Photo: “handshake” by 드림포유 is licensed under CC BY-ND 2.0
先日、CHRB(企業人権ベンチマーク)の2019年版が発表され、アディダスが2年連続で最高スコアをマークしました。
他のベンチマークでも高い評価を受けている同社の人権への取り組み。
どのような特徴があるのでしょうか。
● Third party complaints mechanism(第三者による苦情申し立ての仕組み)
アディダスは2014年、デューデリジェンスの一環として、第三者による苦情申し立ての仕組みを作りました。そして、労働者の権利や人権の侵害に関して受けた苦情の件数とその状況を毎年公表しています。
また、そのプロセスについて、英語だけでなく、スペイン語、ポルトガル語、中国語、タイ語など多言語で説明されているのも特徴的です。日本語の説明もあります。
枠組みを整えるだけでなく、世界中に広がるサプライチェーンに潜むどんな苦情も見逃さず、改善していこうとする本気度が感じられます。
● Human rights defender(人権擁護者、HRD)との関係
Human rights defenderという用語は、1998年にDeclaration on Human Rights Defenders(人権擁護者に関する宣言)が国連で採択されて以降、広く使われるようになりました。
アディダスでは、HRDの具体例として、労働組合や環境団体、人権活動家などを挙げ、その活動には、自社の事業に関係するものであっても一切干渉しないとする方針を明確にすると同時に、取引先にも同様の対応を求めています。
また、共通の価値が生まれる領域(環境の持続可能性、サプライチェーンにおける労働者の権利の保護など)では特に、HRDと協力していく姿勢も明確にしています。
どちらかというと対立関係に陥りがちな間柄にあって、協力していく方針を打ち出しているのが新鮮です。
労働者の権利であるaccess to grievance mechanisms(苦情申し立て制度の利用)やfreedom of association and collective bargaining(結社・団体交渉の自由)などは、形式は整っていても、ともすると実態が伴わないケースが出てしまいそうですが、アディダスの取り組みはどれも非常に具体的です。
同社のHPにはこうあります:
…our human and labor rights program has been built on the back of intense stakeholder outreach and engagement: seeking to understand and define the most salient issues to address as a company.
(試訳:当社の人権・労働者の権利に関する計画は、ステークホルダーへの真摯な働きかけとエンゲージメントに基づいて組み立てられている。そうした働きかけを通じて、企業として取り組むべき最も顕著な課題を把握・特定しようと試みている)
徹底的にステークホルダーの視点に立って人権を考えたのが、アディダスの出発点と言えそうです。
人権とは、そもそも誰にとっての、どのような権利なのか。
具体的に考えることが、効果的な取り組みへの第一歩といえそうです。