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気候変動と土地利用 より多くのコベネフィットを
8月上旬、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書第2弾「気候変動と土地」が公表となりました。
IPCC Special Report: Climate Change and Land
(Summary for Policy Makers)
それに続き、各国のNGOや研究機関などからこの報告書を踏まえた提言や記事が公表されています。
その中から、「報告書に書かれている科学データはどのようなものか、そして私たちにできることは何か」を、分かりやすくまとめた World Resources Institute(WRI)の記事「7 Things to Know About the IPCC’s Special Report on Climate Change and Land(IPCC特別報告書「気候変動と土地」について知っておきたい7つのこと)」の概要をご紹介します。
1. The way we’re using land is worsening climate change.
人類による土地利用は、気候変動を悪化させている。
農業、林業およびその他土地利用は、世界全体の人為的活動に起因する温室効果ガスの人為起源の総排出量の約23%、メタン(CH4)の約 44%を占めている。メタンの排出は、農業、泥炭地の破壊、その他の土地に関する発生が原因である。
2. But at the same time, land acts as a tremendous carbon sink.
しかし同時に、陸域はとてつもなく大きい炭素吸収源でもある。
2007~2016年の10年間で、農業や森林の劣化などにより年間5.2ギガトンのCO2が排出されたが、同時に森林や湿地などが年間11.2ギガトンのCO2を吸収した。つまり、年間正味6ギガトンのCO2を陸域は吸収したことになる。
3. The very land we depend on to stabilize the climate is getting slammed by climate change.
人類が気候の安定に向けて頼りにしている陸域そのものが、気候変動によって痛めつけられている。
陸域の気温は1850~1900年と2006~2015年を比較すると1.5℃上昇しており、これは(陸域と海域の両方を合わせた)地球全体の気温上昇よりも75%高くなっている。
4. Several land-based climate solutions can reduce emissions and/or remove carbon from the atmosphere.
排出を削減したり、大気からの炭素を排除することができる、土地利用に関する気候策がいくつもある。
もっとも効果的と考えられるのは、森林破壊および森林劣化を食い止めることで、年間0.4~5.8ギガトンの削減の見込み。また、農法を含め食料生産・消費での大きな変化が必要であり、植物由来の食料へ移行し、食料廃棄および農業廃棄物を削減する必要がある。
それに続き、植林や森林再生にも大きな可能性があり、さらに炭素貯留と組み合わせたバイオマス由来のエネルギーの活用(BECCS)も考えられるが、土地利用の競合や持続可能性に関する懸念があり、これらの解決策は多くのモデルが検証するよりも可能性はかなり低くなるかもしれない。
5. Many land-based climate solutions have significant benefits beyond curbing climate change.
土地利用に関する気候策の多くは、気候変動の抑制を超えた便益がある。
報告書によれば、以下の解決策は非常に大きなコベネフィット(相乗的便益)がある。
・森林管理、森林減少および劣化の削減
・土壌内の有機炭素量の増加
・鉱物風化(岩石の分解を促進し、炭素吸収量を増加させる)の促進
・食べるものを変える
・フードロスと食料廃棄の削減
例えば、土壌の炭素量を増大することで大気中への排出を抑えるだけでなく、気候変動に対する作物の回復力が強化され、収穫量が増大する。
6. Some land-based climate solutions carry significant risks and trade-offs, and need to be pursued prudently.
重大なリスクやトレードオフをもたらす、土地利用に関する気候策もあり、慎重を要する。
あらゆる介入策は、「正味の便益」を考慮する必要がある。例えば、草原を森に変えるのは土壌内の炭素量を増加させるかもしれないが、一方で重要な炭素吸収源である草原を損なう恐れもある。
7. In particular, land-based climate solutions that require large land areas could threaten food security and exacerbate environmental problems.
特に、土地利用に関する気候策で広範な面積の土地を必要とするものは、食料の安全保障を阻害し、環境問題を悪化させる恐れがある。
土地に関する排出量削減および炭素除去の取り組み(大規模な植林、バイオエネルギー向け植物の生産)は、広範な面積の土地を必要とするため、食料生産など、その他の土地利用と競合する。これにより、食料価格の高騰、水質汚染の悪化、生物多様性の損失をもたらし、森林をその他の土地利用に転換することにもつながり、その結果、さらなる排出量増加につながりうる。
さらには、エネルギーや輸送等その他のセクターでの排出削減を実現できなかった場合、土地に関する気候策にさらに依存し、食料および環境への負担が深刻化する。
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この記事の最後に、IPCCの本報告書からわかる最も包括的な洞察として、細心の注意を払って土地利用と気候の安定のバランスをとることが必要と述べています。それを正しく行えば、排出を削減することができる一方で大きなコベネフィットが生まれ、失敗すれば、気候変動に拍車をかけ、食料の安全保障と環境問題が悪化する、とあります。
「コベネフィット(co-benefit)」は政策決定者向け要約(Summary for policymakers)に頻出します。これまでは、より望ましい結果につながる方策を選ぶ「トレードオフ」について語られることの多かった気候変動問題で、コベネフィットに注目が集まるのは、異常気象の発生が明らかに多くなり、より多くの便益を生む方策が望まれているからでしょう。また、土地に関する気候策は、食料の安全保障にも密接につながっているため、成功すれば貧困、健康、経済、幸福など、社会・環境・経済面での便益が生まれ、より多くのSDGsの実現につながるからです。
9月下旬に、IPCCの特別報告書第3弾である海洋・雪氷圏に関する特別報告書が公表予定です。こちらも注目しています。
関連情報:
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「土地関係特別報告書」の公表(第50回総会の結果)について(環境省)
https://www.env.go.jp/press/107068.html
『気候変動と土地』政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドラインステートメント)(環境省)
https://www.env.go.jp/press/files/jp/112200.pdf