二つの顔を持つ言葉

2019 / 6 / 28 | 執筆者:Yukiko Mizuno

翻訳をしていて悩ましいのは、専門用語や難解な言い回しばかりではありません。知っていると思っていた言葉に別の意味があって驚くことも多々あります。

先日読んでいた記事に rescue dog という言葉が出てきました。手元の辞書をいくつかあたってみると「救助犬」とあるのですが、どうにも文脈に合いません。いろいろと調べるうちに、オンライン辞書で以下の説明を見つけました。

Rescue dog:
1 A dog trained to aid in rescue operations.
2 A dog that has been rescued from abuse, neglect, etc.
https://en.oxforddictionaries.com/definition/rescue_dog

1は救助犬、2は虐待などから保護された犬。「救助する」と「救助される」という、正反対の意味があるのに驚きました。

日本語でも同じような例はないかと考えて、思い出したのが「雇用者」という言葉です。

①使用者に雇われて働く労働者。会社・団体・個人や官公庁に雇用されている人。会社員・工員・公務員・団体職員など。被用者。
②雇用する人。使用者。
(広辞苑より)

「雇用される側」と「雇用する側」の二つの意味があって紛らわしいので、一般的には前者には「被雇用者」、後者には「雇用主」という言葉が使われます。

ところで英語では、一つの単語に二つの反対の意味があるものをContronymといいます。またの名をJanus word。前と後ろに顔を持つローマ神話のヤヌス神に由来します。
https://www.lexico.com/en/definition/contronym

例をいくつか挙げると、Sanctionには「違反に対して制裁を加える」、「正式な許可や認可を与える」という意味があります。Oversightには「監視」と、「見落とし」という意味があり、これを取り違えるとおかしなことになります。Cleaveも「裂ける」と「くっつく」という反対の意味を持つ、二面性のある言葉です。

こうした特徴のある言葉は翻訳者泣かせですが、言葉の奥深さが感じられておもしろいものです。ちょっとクセのある?言葉との出会いは、日々文章と向き合う仕事だからこそ得られる楽しみの一つです。

楽しみはさておき、文章を読んでいて「何かしっくりこないな」と思ったら、それは注意信号。気付く力、言葉に対する感度も、翻訳者には必要です。仕事のなかでも、仕事を離れても、たくさんの英語や日本語に触れて、感度を磨いていきたいと思います。

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