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PADDD:保護地域降格・縮小・解除
PADDDtracker as of June 13, 2018
6月9日のNew York Timesの記事で、PADDD(Protected Area Downgrading, Downsizing, and Degazettement)という言葉を知りました。Protected Areaは国立公園や自然保護区のこと。そのdowngrading, downsizingというのは想像がつきますが、degazettementは初めて耳にする言葉です。
調べたところ、コンサベーション・インターナショナル(CI)ジャパンが、ホームページで「保護地域降格・縮小・解除」と訳しているのを見つけました。コンサベーション・インターナショナルは、生物多様性の保全、人間社会と自然の調和をミッションとする国際NGOです。同団体が2016年の生物多様性条約COP13で示した提言の中で、この言葉が使われていました。
PADDDとは、保護区の中で行われる人間活動に対する法的規制が甘くなったり(downgrading/降格)、法で定める境界が変更されて面積が縮小したり(downsizing/縮小)、保護区の法的保護が機能しなくなったり(degazettement/解除)して、生物の多様性が適切に保護されなくなっている地域のことをいいます。(参考:PADDDtracker)
New York Timesの記事では、世界中でPADDDが増加している背景には2つの問題があると述べています。
問題点1:設置には積極的、保護には消極的
・保護区の設置は比較的容易(政治家にとっては株を上げるチャンス)なのに対し、
保護区を実際に保護することにはどこも消極的。
・世界の国立公園や自然保護区のうち、3分の1は人間活動の強い圧力を受けている。
↑ 保護区であっても人間の利益が優先されることが多いため。
例)保護区が石油や天然ガスの埋蔵地に近接。政府が採掘を許可。
例)ゾウの生息地にウラン鉱山。採掘認可のため、国際機関が保護区の境界を変更。
問題点2:設置場所より、設置面積
・「2020年までに陸域の17%、海域の10%を保護区にする」というような数値目標に
とらわれ、「生物多様性の点で特に重要な地域を保護区にする」という点を無視して、
面積を拡げることばかりに意識が向いている。
例)絶滅危惧種を守れる可能性の高い沿岸部ではなく、
人間活動による影響が少ない砂漠地帯に保護区を設置。
例)広大な海洋保護区を設置。ただし、人的影響が大きい沿岸部は対象外に。
Nature Ecology and Evolution掲載論文の一節を引いた筆者の言葉が胸に刺さります。
“Pretending to protect species based purely on the number of acres protected is like managing human health care based on the number of hospital beds, “irrespective of the presence of trained medical staff” or “whether patients live or die.”
「保護区の面積だけを基準に種を保護しているフリをするのは、病院の病床数で人々の健康を管理しようとするようなもの。訓練を受けた医療従事者はいるのか、患者は生きているのか、といった視点がそこにはない」(ENW試訳)
本来の目的を忘れ(あるいは、目をそらし)、数値目標の達成に躍起になる―
課題解決のプロセスで起こりがちではないでしょうか。人間が本質を見据えた賢明な選択をできるかどうか、それがすべての種の未来を左右するのです。