Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
ひとつの言葉が伝えるそれぞれの責任 採掘現場での人権
この春に、アムネスティ・インターナショナルが2017年11月に公表したTime to Recharge: Corporate Action and Inaction to Tackle Abuses in the Cobalt Supply Chainの英日翻訳(抜粋版)をご支援する機会をいただきました。
その翻訳作業の中で、「OECDガイダンス」の第3版(画面冒頭の資料)を参照しました。今回は、その時の気づきをお伝えします。
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「OECDガイダンス」は、鉱物のサプライチェーンでの人権侵害を阻止し、非合法的な武力集団の資金源となるのを防ぐため、企業が率先してデューディリジェンスを実行するための枠組みを示す国際基準の一つです。
第3版の序文に「3TG(すず、タンタル、タングステン、金)」のサプライチェーンにのみ適用を限定するとみなされた文言を削除し、このガイダンスの更新版が、すべての鉱物の責任あるサプライチェーン管理の基礎として、詳細なデューデリジェンスの枠組みを提供していることが明らかになったと述べています。
ざっと見ていくうちに、Short review (概要簡略版)に記載されているガイダンスの目的のところで気になる表現がありました。
enable due diligence for legitimate artisanal and small-scale mining
合法的な小規模の手掘り採掘者のためのデューデリジェンスを実現する(試訳)
本文でも小規模の手掘り採掘の前にこの形容詞が多くあります。
なぜ「合法的な」という形容詞が必要なのだろう?
なぜ「すべての」ではないのだろう?
ガイダンスをを読み込んでいくと、69ページに詳しく定義されていました。
「合法的」とは、
・適用される法律を遵守した手掘り採掘であること(「合法的な」という言葉を開いて説明)
・適用されるべき法的枠組みが施行されていない、あるいは枠組みそのものがない場合は
(1)手掘り採掘者と企業が法的枠組みにもとづいて操業しようとする誠実な努力、そして
(2)そのような枠組みの確立に取り組む誠実な努力
を考慮する
・紛争の資金源となる、あるいは重大な人権侵害の原因となるすべての採掘は「合法的」と見なされない
また、多くの場合小規模の手掘り採掘者は、法的枠組みの確立に取り組むための専門的・経済的能力が限られていることも記載されています。
アムネスティのTime to Recharge は、ほとんどの手掘り採掘者は非認可地域あるいは統制されていない地域(unauthorized and unregulated areas)で作業したり、採掘企業の管理地に不法侵入している(trespass on land controlled by industrial mining companies)実態を明らかにしています。
「合法的な」と明示することによって、政府に法的枠組みに関する改善努力を要求していることが伺えます。また、採掘企業には法的枠組みを設置するためのエンゲージメントを求めています。そして、実際にこのガイダンスを読む手掘り採掘者は少ないかもしれませんが、彼らにも合法的である(非認可地域での採掘や不法侵入を行わない)ことを婉曲に求めています。
人権を守り、紛争に関与しないために、それぞれの関係者が果たすべき責任が示されています。
このガイダンスは、8カ国語で公表されています。多国語の版がある資料には、確実に理解されるようにこのような詳しい定義があることが多く、全体を理解し整合性を図る上でも役立ちます。(残念ながら現在、日本語版を見ることができませんが…)
※2018年5月17日、本文の記載を修正しました。