Teshima(豊島)を訪ねて

2018 / 3 / 19 | カテゴリー: | 執筆者:Masako Maeda


一昨年に翻訳をお手伝いしたサステナブル・ブランズの記事で、瀬戸内海にある豊島のことを知りました。淡路島の左に浮かぶ比較的大きな島が小豆島。さらに左には近年、現代アートで注目を集めるようになった直島があります。その小豆島と直島のあいだにあるのが豊島。ずっと気になっていたこの島を年末訪れました。現地を訪問して感じたことを、ウェブの記事とともに振り返ります。

“Teshima means “a rich, fruitful island.” As its name suggests, Teshima was blessed with bountiful nature and abundant agriculture, fishing and dairy farming.”
豊島はその名のとおり豊かな自然に恵まれた島で、農業や漁業、酪農で栄えてきました。

“The islands, which never underwent rapid industrial modernization, have maintained their original backdrop of lively Japanese culture, tradition and rusticity.”
ほかの瀬戸内海の島々と同じく、豊島も近代化から取り残され、ゆえに文化や伝統、素朴な暮らしなど、日本の原風景がいまなお残されています。実際に訪れた豊島は、静かで穏やかで、rusticityという言葉のままの小さな島でした。
*rusticity (adj.) Having a simplicity and charm that is considered typical of the countryside. By Oxford Dictionaries

“But the legacy of that harsh era remains, with many islands grappling with unauthorized dumping of industrial waste, environmental pollution, and rapid depopulation.”
その一方で、近隣地域の急速な近代化と高度成長による負の遺産の受け皿となってきたのも、瀬戸内海の各島です。

豊島の住民は1960年代から、島の土地を所有する業者による産業廃棄物の不法処理、不法投棄の問題に苦しんできました。記事が書かれた一昨年には、不法投棄された産廃を直島の中間処理施設で無害化するための搬出作業が依然として続いていました。すべての搬出が完了したのは、ちょうど1年前の2017年3月。島外搬出が始まった2003年から、14年という歳月をかけた長い長い道のりでした。

“…at the moment, the island seems determined to maintain a distinct distance between the local community and outside company involvement, instead focusing on returning the island to its original natural state.”
現在の豊島は、企業と一定の距離を保ちつつ、島本来の姿への回帰を目指しているようです。

島のはずれに「心臓音のアーカイブ」という小さな美術館があります。来館者の心臓音を収集し、生きた証として恒久的に保存しているユニークな美術館で、島本来の姿(its original natural state)を壊すことなく海辺の風景にひっそりと溶け込んでいます。

“Teshima―It’s a place you can’t easily reach. It’s a quiet, beautiful island that is far from Tokyo and other large cities of the world.”
「簡単には行き着けない場所。世界の大都市から、そして東京からも離れた静かで美しい島」

美術館のリーフレットでは、豊島をそう表現しています。しかし、そんな豊島に、日本の原風景を見ようと、現代アートを鑑賞しようと、世界中から人々が訪れています。

美術館の館内に鳴り響く力強い鼓動が、業者や県との長期に及ぶ闘いに勝利した島民の芯の強さと重なります。産廃という負の遺産から解放された今、島の人々が願う島の姿をひとつずつ取り戻し、美しい自然と穏やかな暮らしが守られていくことを願わずにいられません。

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