Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
WastewaterはもうWasteではなくなる
Photo: MEP Water Group
6月1日~7日は水道週間。今年のスローガンは、「あたりまえ そんなみずこそ たからもの」ですが、そこからさらに踏み込んだテーマ Wastewater: The Untapped Resource(廃水――手つかずの資源)について、UN World Water Development Report 2017(国連世界水発展報告書2017)が発行されました。
その序文(Page viii, Preface)に、「?!」の発見が。
The entire notion of wastewater is itself somewhat of an oxymoron. Once water has been used for any purpose, it should not be seen as ‘wasted’. In other languages it is called ‘used water’ (eaux usées in French), ‘residual water’ (aguas residuales in Spanish) or ‘after-use water’ (Abwasser in German). Indeed, making the case for moving away from the notion that used water is a waste to be disposed of – towards wastewater as a resource – is the central message of this report.
「wastewater」という言葉の概念そのものがやや矛盾した表現なのである。水が何らかの目的のために使用されたからと言って、「廃棄された」と見なされるべきではない。 他の言語では、「使用済みの水」(eaux usées、フランス語)、「残存水」(aguas residuales、スペイン語)、「使用後の水」(Abwasser、ドイツ語)と呼ばれている。 実は、使用済みの水は廃棄物ではなく資源である、と私たちの考え方を変えていこうというのがこの報告書の主要なメッセージである。(試訳)
報告書が提案するように考え方を変えるには、私たちが使用する言葉も変えていく必要があるかもしれません。他の箇所でも、wastewater を water after it has been used(使用後の水)と言い換えるなど、苦心しているのがうかがえます。
目にとまったのが、non-potable water。
potable は「飲用に適した」を意味するので、non-potable (飲用に適さない)は、一見してネガティブな印象を受けますが、はっきりと「飲めません」と言い切るので、誤用を避けられるという利点があります。
水は、様々なものを洗うためにも、物資を運ぶためにも利用されますが、何よりも重要なのは、生命を育み維持する機能ではないでしょうか。その観点で言えば、上記のように呼ぶことは合理的と思われます。
さて、日本語は…。「使用後の水」ではやや長いため、フランス語やドイツ語のように、簡潔な名称が欲しいものです。
ちなみに、日本には古くから、上から下へ資源を利用する文化があります。もののライフサイクルをできるだけ長くする知恵で、例えば、私は母から、布は茶碗用ふきん、食卓用の台ふきん、床掃除用のぞうきん、そしてウェス、と使いまわすように教わりました。
水も同じように、上水、下水の間に位置する「中水」があり、洗濯や入浴で使用した後の水を表します。しかし、主に家庭からの排水を指すため、適用範囲は限定されます。
日英ともに、水に関するボキャブラリを研究し、より注意深く使い分けていきたい、そう考えます。