Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
お客様の声=Voice of the Customer?
お客様の声 -企業のレポートに度々登場する言葉です。
この言葉、英語では何と表現すればよいでしょうか?
直訳すると、voice of the customer (VOC)。
Wikipediaではこの言葉を次のように定義しています:
”the Voice of the Customer is a market research technique that produces a detailed set of customer wants and need(顧客の要望やニーズを詳細に知るための市場調査の手法)”
VOCはシックスシグマでも使われているビジネス用語で、アンケートや市場調査、カスタマーサービスなどを通じて、顧客から苦情や要望などの声(VOC)を集め、製品やサービス、業務の改善に活かします。
過去に米国人の翻訳者から、voiceという言葉は通常、social empowerment(社会的エンパワメント)の文脈で用いられることが多いため、日本企業のレポートに登場する「お客様の声」を”voice of the customer”と訳すのには違和感がある、と言われたことがあります。
英英辞書では第一義の「声、音声」に続き、次のような定義があります。
voice (n): A particular opinion or attitude expressed
―Oxford Dictionaries
改めて、外国企業のレポートでは、「お客様の声」のニュアンスがどのように表現されているのか、次の10社のレポートで確認してみました:ネスレ、ユニリーバ、ウォルマート、Gap、BP、アップル、ノボ ノルディスク ファーマ、M&S、フォード、GE
まず、voice of the customerという表現はどのレポートにも見当たりませんでした。
代わりに意味合いが近いものとして、customers’ feedback、customer insightsなどの表現が使われていました。あるいは文脈に応じて、customer demand、customer expectations、what customers wantのようなバリエーションも見られます。
同じく10社のレポートでvoiceを検索してみると、Gapのレポートに以下のような例がありました。
“We’re a voice for marriage, racial, and gender equality.”
“…listening to workers’ voices: How are they treated?”
“workers’ opportunities to voice their concerns”
いずれも、ダイバーシティや労働者の権利など社会的エンパワメントに関する文脈で、何らかの立場や意見を表明する意味合いで使われています。
こうして見ると、voiceという言葉は市場調査やシックスシグマの文脈、あるいは何かを声高に主張するような文脈で限定的に使用し、「お客様の声に耳を傾け…」といった表現には”listen to our customers”や”listen to feedback from our customers”といった英語をあてるのが自然に思われます。
日英翻訳の現場では、既に定訳として使われている表現に、ネイティブ翻訳者から「英語として違和感がある」と指摘が入ることがあります。翻訳者の「声」に耳を傾け、外国企業のレポートに学びながら、より自然な英語表現をご提案できるよう努めています。
Photo by Howard Lake