Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
認知症ケアでの効果に期待 Doll Therapy
長寿化・高齢化を背景に、認知症の患者数が増えています。
厚生労働省の平成28(2016)年版高齢社会白書によると、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になると見込まれています。
今後、いままで経験したことのない課題に直面することが予想されますが、介護の現場ではすでにさまざまな取り組みが進んでいます。
そのひとつがdoll therapy(ドールセラピー)です。
日本でも、メンタルコミットロボ「パロ」をはじめ、認知症等の症状緩和に人形やロボットを用いる治療法が医療施設や福祉施設を中心に導入されています。
日本以外でも同様の商品が発売されていますが、その活用については賛否が分かれています。
効果としては、
・患者の不安や怒りなどの行動障害、精神障害が軽減された。
・自身の経験を思い返すきっかけとなり、コミュニケーションが円滑に進んだ。
・やるべきことがあると感じることで生きがいにつながる。
・向精神薬の使用量が減った。
などが報告されています。
一方、否定的な意見としては、
・高齢者を子ども扱いしている。
・高齢者の尊厳や品位を傷つけることになるのでは?
・自分の家族だったら受け入れられるか不安
といった倫理的配慮に関するものが多いようです。
また認知症ケアの考え方のひとつとしてdiversional therapy(ダイバージョナルセラピー)も注目されています。
オーストラリアで生まれた「老いることを楽しむ」という理念で、方向転換するという意味合いのdiversionがベースになった用語です。認知症であるということは別にして、その人にとって価値のあるレジャーやレクリエーションを通して楽しく生きることに焦点をあてようというもの。
そういう意味ではdoll therapyもそのためのアプローチのひとつと言えそうです。
オーストラリア・ダイバージョナルセラピー協会のPeggy Skehan氏は、「ダイバージョナルセラピーとは、朝、ベッドから起き上がる理由をもてるように手助けすることである」 と話しています。
自分にとって現実的な問題になったとき、どういう感情が沸き起こるのか不安はありますが、患者本人にとって「朝、ベッドから起き上がる理由」のひとつになるのなら、さまざまな可能性を考えられる自分でいたいと思います。
長寿化・高齢化は今後も進んでいきます。今回取り上げたものに限らず、さまざまなアプローチのなかから本人と家族が自らにとって最善のものを選べるようになることを願っています。
(翻訳コーディネーター/翻訳者 山本 香)
Photo: “Die Computer-Robbe PARO” by wissenschaftsjahr is licensed under CC BY 2.0