Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
名は体を表す? 名称と略称・略語の関係
太平洋諸国には、それぞれに異なる分野を扱うRegional Organization(地域機関)と呼ばれる団体がいくつかあります。例えば以下のような団体です。
- 当初の団体名と略称、主に対象とする分野
South Pacific Commission (SPC)、科学・技術の開発、農業、社会開発など
South Pacific Regional Environment Programme (SPREP)、環境の保全と持続可能な開発
South Pacific Forum Fisheries Agency (FFA)、漁業
いずれも設立当時は、団体名にSouth Pacific(南太平洋)という地域名を冠していたのですが、その後、加盟国に北太平洋の諸国が加わって地域が拡大していき、名が体を表さなくなりました。
South Pacific Commission(南太平洋委員会)の例を挙げると、1990年代に組織名を変更する機運が高まり、1997年にPacific Community(太平洋共同体)と名称を変更しました。しかし長年親しまれてきたSPCという略称を残したいという声が多く、活発な議論の末に、「SPC」はSecretariat of the Pacific Community(太平洋共同体事務局)の略称として残ったのです。SPREP、FFAも同じような経緯を経て、現在は以下の名称になり、略称はそれぞれ引き継がれています。
- Secretariat of the Pacific Regional Environment Programme(太平洋地域環境計画事務局)
Pacific Islands Forum Fisheries Agency(太平洋諸島フォーラム漁業機関)
組織変更などに伴う組織名や略称の変更は珍しいことではなく、日本でも、政府開発援助(ODA)を行う「国際協力事業団」が2003年に独立行政法人となった際に「国際協力機構」と名称を変更しています。その際、英語名と略称はJapan International Cooperation Agency (JICA) がそのまま残りました。これも一つには、海外でよく知られている名称を継承したいという思いがあったのではないかと推察します。
組織は時と共に形を変えていきます。組織変更に伴って名称や略称が変わることもあれば、変わらないこともあるので、翻訳者としては悩ましいですが、常に最新の情報を確認するよう心がけています。
(注)SPC、SPREPの訳語は「事務局」が省略される場合もあります。またFFAの略語は「フォーラム漁業機関」とされる場合があります。
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視点を変えると、全く異なるものに同じ略語が使われることもあります。例えば太平洋島嶼国の関連でSIDSと言えばSmall Island Developing States(小島嶼開発途上国)ですが、医学ではSudden Infant Death Syndrome(乳幼児然死症候群)を意味します。資料の中で定義されていない略語は、念のため確認しておくと安心です。
Photo by Christina Spicuzza