Translators in Sustainability
東日本大震災とGreat East Japan Earthquake
3月11日、東日本大震災の発生から今年で6年を迎えます。
過去6年間、多くの組織や企業が復興に向けて
さまざまな活動を行ってきました。
取り組みの内容は、Webサイトや報告書を通じて外部に発信され、
その一部は英語などの言語に翻訳されて海外に紹介されています。
私自身も、環境への取り組みに関する記事やCSRレポートの英訳に
日々取り組む中で、東日本大震災に関する文章を目にする機会が
これまで多くありました。
東日本大震災の英語の公式名は、Great East Japan Earthquake。
政府が日本語の名称を「東日本大震災」と定めた後に、
外務省の記者発表等でこの表記が使用されるようになりました。
以前、米国人の翻訳者から、Great East Japan Earthquakeではなく、
2011 earthquake and tsunami in Japanのように別の言葉で表現したい
と言われたことがあります。英字メディアではそのように報じられる
ことが多いから、というのがその理由でした。
発生直後の2011年4月、ニューヨーク・タイムズは
日本政府が発表したGreat East Japan Earthquakeという
表記を用いて記事を出しています。
ただ、現在までのアーカイブを検索すると、公式名でのヒットは16件、
2011 earthquake and tsunamiでは227件の用例が見つかります。
BBCなど他のメディアでも同様の傾向がみられます。
そして昨年末、元ロイター記者のニュージーランド人の翻訳者から、
Great East Japan Earthquakeの使用はできるだけ控えたほうがよいのでは
と改めて助言がありました。Greatという言葉は、この震災が他の震災より
significant(重要)だと示唆するような印象を与えるというのです。
たとえば、2004年12月にインドネシア西部のインド洋で発生し、
22万人の死者・行方不明者を出したスマトラ島沖地震。
この大震災を、英字メディアはIndian Ocean earthquake and tsunami
のように呼んでいます。
これらの大震災が発生した直後の様子を報じるものから、
その後の復興状況を伝えるものまで、記事を追ってみて感じたのは、
Greatを含む固有名詞を正式名称として使い続けるのは、
確かに少し配慮に欠けるのではないかということでした。
地震や津波の規模を形容して、greatが用いられることはよくあります。
ただ、Reconstruction support for the Great East Japan Earthquake
のような表現では、Greatがことさら強調されて見えます。
東日本大震災は、日本周辺における観測史上最大の地震であり、
大きな傷跡を残す大災害であったことは紛れもない事実です。
それでも、日本の出来事を海外に発信する際には、他国で同じように
悲惨な災害を経験した人々が読者となることも念頭に、英字メディアに
見られるような表現上の配慮が必要ではないかと改めて感じています。
Photo by Lyn Gateley