Translators in Sustainability
難題を機会に embrace
Photo by sam.romilly
昨年11月にスイスで開催された第5回「国連ビジネスと人権フォーラム」の
基調講演で、「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年に国連で承認)を
作成したジョン・ラギー教授が、この指導原則と持続可能な開発目標(SDGs)の
関係について述べています。
企業は「人権」に配慮する取り組みを進める努力をしなければならない。
単に「人権を害する慣行を改める」にとどまらず、積極的に貢献することが
必要だと、ラギー教授は強調しています。そして、世界的なバリューチェーンに
関わる労働者の人権に配慮する取り組みを企業が協力して進めていけば、
二つの「変化をもたらす(transformative)」効果が得られるだろうと指摘します。
一つは、労働者やその家族の状況が大幅に改善されること。
人々の暮らしがよくなり、国が発展するだけでなく、企業にとっては
消費者層が拡大するという利点につながります。
もう一つは、先進諸国で、大衆に迎合する勢力がグローバリゼーションを
脅かすものとして台頭しつつある中、その脅威への対処に役立つこと。
こうした勢力は、グローバリゼーションによって企業が他国に生産拠点を
移したために取り残された人々から支持を得ていますが、人権に配慮し、
人件費や労働規制などの面で世界的にもっと公平な競争の場を築くことができれば、
(こうした勢力の主張よりも)よい解決策になることは間違いない、というのです。
企業の積極的な取り組みを呼びかけるラギー教授の講演を読んで、
SDGsに関する別の資料で印象に残った embrace という表現が
頭に浮かびました。embrace には機会などを捉える、喜んで応ずる、
という意味があり、難題を「機会と捉えて受け入れる」という前向きな姿勢を
表す場合にも用いられます。
課題や危機をむしろ飛躍のチャンスだと考えて積極的に取り組む姿勢。
これからの時代にサステナビリティを追求していく上で、
重要なスタンスだと思います。
国際社会が大きく動き出しているのが感じられる中で、新しい年が始まりました。
個人や企業がそれぞれに、こうした姿勢で難題に立ち向かい、前進していく
1年であってほしいと願います。