Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
主語が不要な日本語、必須の英語
日本語は主語がなくても通じる言語です。
「(あなたは)宿題やった?」
「(私は)もうやったよ」
会話では誰のことを話しているのか当事者間で明らかなため、これで通じます。
文章でも文脈から推測できるだろうという前提で、主語がたびたび省略され、
大概のことは問題ありません。
しかし、これを外国語にするとどうでしょうか。
日本の組織の取り組みを英語で発信するとき、
「主語の決定」は常に悩ましい問題です。
例えば次のような文があるとします。
ABCグループは、○○を通じた社会への貢献を目指しています。
A社は~に成功し、現在では○○業界のリーディングカンパニーとなりました。
また、B社はABCグループの知見と技術を応用し、△△の開発を目指しています。
△△を通じて、~の向上に貢献していきます。
ここで、A社とB社はABCグループの子会社です。
○○と△△には、それぞれ同じ言葉が入ります。
これを例えば次のような英語にするとします。
The ABC Group is aiming to contribute to society through ○○.
Company A succeeded in …, and now became an industry leader of ○○ sector.
Company B is also applying the Group’s knowledge and technologies to develop △△.
With △△, XXX hopes to contribute to improving …
さて、最後の文のXXXは何を主語とすべきでしょう?
まとめの文なので、ABCグループを主語とすると収まりがよいですが、
話題となっている△△の開発を目指しているのは子会社のB社です。
ただ、「~の向上への貢献」を望んでいるのはB社だけでなく、
A社も含めたグループ全体であるようにも思われます。
これを次のように書き換えてみます。
We at the ABC Group are aiming to contribute to society through ○○.
Company A succeeded in ~, and now became an industry leader of ○○ sector.
Company B is also applying our knowledge and technologies to develop △△.
With △△, we hope to contribute to improving ~.
グループ全体の目標や活動について述べるときはwe(our / us)とし、
グループ会社の目標や活動について述べるときは会社名を明記しています。
もちろん、XXXにあたる主語を確認したうえでのご提案となりますが、
最後の文の主語を Company B あるいは the Group と明示するより
日本語に近い印象です。
日本語における主語の省略には、功罪あるように思います。
責任の所在を不明にする、という大きな問題をはらむ一方で、
主体を言明しないことで「関係者全員が同じ思いを共有している」
という含みをそれとなく伝えることもできます。
日本語のこのような含みをそのまま残す自然さが、
weを用いた英文にはあるように感じました。
Photo by Michael Bentley