Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
生物文化多様性 = biocultural diversity(その1)言語と民族
生物多様性と文化の多様性を合わせたこの造語に興味を持って、
5月28日に地元の金沢で、
UNU-IASいしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)が主催する
シンポジウム「石川-金沢生物文化多様性圏の提案」に参加しました。
ユネスコと生物多様性条約(CBD)事務局が2010年から共同で進めている
「生物と文化の多様性をつなぐ」プログラムは、
生物多様性と文化多様性の保全活動の橋渡しとして、
情報共有や相互の活動の相乗効果を創生することなどを目的にしています。
このプログラムの国連担当官や
イタリア・フィレンツェで取り組みを進めている大学教授の講演、
そして石川県や金沢市の関係者からもそれぞれの実践についてのお話を
半日たっぷりと聞くことができました。
様々な気づきがあり、自分の中で反芻しているうちにようやく
このプログラムのキーワードがいくつか浮かび上がってきました。
3回にわたり、そのキーワードをご紹介します。
1つ目は、言語と民族の多様性です。
言語や民族が多様であることが、どうして生物多様性の保全につながるのか?
その答えは、人間の歴史の中にあります。
私たち人間を含め、生物が自然から享受する豊かな恵みを、
持続可能な形で(使い尽くしてしまうことなく)利用する知恵や技術を
世界中の様々な民族が持っています。
それらは伝統的知識と呼ばれ、その民族の言語で口承で伝えられてきたものも多いため
その言語と民族の喪失によって伝統的知識も永遠に失われるリスクがあります。
先住民族には文字文化を持たない民族もあり、
伝統的知識は伝える人の頭の中にある――つまり資料や記録がないものも多く、
使う人がいなくなれば、言葉もそして貴重な知恵や技術も失われるのです。
反対に、言語や民族を守ることが、長い年月をかけて
人々が習得した「自然と調和しながら生きていく術」を守ることになり、
さらに、地球環境や人々の暮らしを守ることにつながります。
また、希少な民族、その言語や文化への尊敬を持って保全することは、
その民族の誇りとアイデンティティを強化し、人々の幸福につながります。
ご自身もオーストラリア北東部の先住民の子孫である
CBDのプログラム担当官ジョン・スコット氏から、
先住民に伝わる伝統的なサバンナの焼畑造成が生物多様性豊かな国立公園の保持に役立っているとの説明がありました。
関連のユネスコ資料: 先住民による生物多様性の管理
オーストラリア政府のIndigenous arts, culture and heritageのウェブサイトには、
現在も受け継がれている多彩な文化や芸術、技術や習慣などが紹介され、その保全に政府が力を入れていることが伺えます。
美しい壁画を紹介するスコット氏の堂々とした姿に、
文化の保全は人々の内面から自然や生物多様性を守ろうというエネルギーを引き出す。
その可能性を感じました。
(つづく)