宮原 桃子さん Momoko Miyahara

「一人ひとりの行動で社会が変わる」大人や子どもたちへ発信

貿易やフェアトレードに関わる仕事を経て、ライターとして活躍する宮原 桃子さん。執筆に加えて、フェアトレードを学ぶ親子ワークショップや絵本制作にも取り組んでいます。「シチズンシップ(市民意識/市民性)」と「多様性」をキーワードに、サステナブルな社会に向かって企業や個人に変化の波を起こせたらと願っているそうです。宮原さんのこれまでとこれからを聞きました。

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-これまでどのようなお仕事をされてきましたか? エコネットワークス(ENW)との出会いも教えてください。

新卒で入ったのはJETRO(日本貿易振興機構)でした。ビジネスを通した貧困問題の解決に関心があったんです。その後、既存の貿易システムで生じている課題に取り組みたい気持ちが強くなり、フェアトレード専門のブランドであるピープルツリーで、バングラデシュやインド、ネパールでの生産管理や生産者団体支援の仕事をしていました。

そして、夫の転勤により、退職してドイツに移住。住んでみたら、ドイツの人びとの社会に対する参加意識や市民意識がとても強くて。消費者一人ひとりが変わらないと、世の中は変わらない。そう思うようになって、ライターとして発信を始めました。サステナビリティや多様性、地域活性化などの切り口で、Think the EarthsoarMACHI LOGなどのオンラインメディアで執筆を続けてきました。

上の子どもたちが大きくなって、仕事の幅を広げたいと思ったときに、出会ったのがENWです。再び企業への関心が生まれ、個人だけでなく企業のサステナビリティを進めるためにライティングでアプローチできる会社はないだろうか。かつ、サステナブルな働き方をできるところはないだろうか。そう調べていた時に見つけ、連絡を取ったのです。

ー普段はどんなお仕事をしていますか?

ENWでは、クライアント企業のCSR報告書の編集やライティング、社内向けコンテンツの執筆、非営利組織による一般消費者向け啓発記事などを書いています。

記事を書くなかで、クライアントの中には変化の波が生まれていきます。何を強みにして顧客や社員に発信するのか、企業や社員として何を実現したいのかを考える機会になりますので。そのプロセスをご一緒できるのが、面白みだと感じています。また、いろんな取り組みを知り、学べることも面白さですね。いかに魅力的に伝えようかと常に考えています。

ーライティングをするうえでは、どんなことを心がけていますか?

読み手がさまざまなテーマを「自分ごと化」できるよう、身近に感じてもらえる書き方を心がけています。どんな大きなビジネスの話でも、一人ひとりの社員の腹に落ちない限り、表面的な取り組みになってしまいます。

宮原桃子さんインタビュー風景

インタビューの際は、その方自身や取り組みの背景にある、核となる考えや思いを引き出せるよう心がけています。

ー宮原さんは、フェアトレードのワークショップもしていて、その経験もライティングの姿勢に活かされているのではないでしょうか? ワークショップの活動について教えていただけますか?

ピープルツリー時代の元同僚と一緒に、フェアトレードやエシカル消費を学ぶワークショップ団体「フェアトレードガーデン世田谷」を設立し、活動してきました。地域のイベントや自治体の講座、学校・保育園、学童などさまざまな場に呼んでいただいています。幼児から小学生を対象にしたワークショップなので、付き添いの保護者の方も一緒に考えていただき、お子さんと一緒にアクションにつなげてもらえるよう工夫をしています。大人にとっても、わかっているようでわかっていないことって意外にたくさんあって、子ども向けにわかりやすく伝えることで、「初めてわかりました」と言ってくださることがあります。

ワークショップ風景。子どもたちに囲まれる宮原桃子さん

洋服やチョコレートなどをテーマに、身近なモノの裏側にあることやフェアトレード、自分たちにできることを、紙芝居やクイズなどを通して楽しく学びます。

ワークショップでは、明日の行動につながるような、具体的な情報をなるべく入れています。フェアトレード商品や購入できるお店の紹介だったり、おすすめの絵本だったり、「ちょっとやってみようかな」と思えるようなハードルの低いものです。もちろん、お財布事情や心の余裕に応じて、できるときにできることから取り入れてみてもらえれば、と思っています。行動に落とし込めるデザインにしているのは、ライティングと同じかもしれませんね。

ーフェアトレードの絵本も作ったとか?

はい、『ムクリのにじいろTシャツ』という自主制作の絵本です。出版したのは2013年、バングラデシュの縫製工場ビル「ラナ・プラザ」の崩落事故が起きた年です。私たちが日々身に着けている衣服を作るために、安全性の低いビルで、劣悪な労働条件で働いていた多くの労働者が亡くなりました。事故のニュースが流れても、きっとすぐに忘れられる。絵本にして伝えていきたいな、と。

ムクリのにじいろTシャツ表紙

「ムクリのにじいろTシャツ」(宮原桃子・作、中澤あや子・絵)

当時はフェアトレードの絵本って、日本ではあんまりなかったんですね。子どもに伝えたくても伝えられなくて。そこで、私が文、母が絵を担当して絵本やウェブサイトを作って、自分で売り始めました。さまざまな高校の授業で教材として使ってくださったり、図書室に入れてくださったりしています。

ー思いを形にする行動力が素晴らしいですね。フェアトレードや消費に関心を持つようになったのには、きっかけが?

ビジネスを通した貧困解決に関心を持ったのは、大学1年の時にスタディツアーでインドに行ったのが大きかったと思います。貧困をどうしたら解決できるのかが、大学時代の一つのテーマで。勉強するうちに、『「南」からの国際協力―バングラデシュグラミン銀行の挑戦』というブックレットに出会ったんです。これは、グラミン銀行のマイクロクレジットを扱った本。衝撃でした。貧困の解決への一つのアプローチとして、一方的な援助ではなく、人びとが自立して生きる手段、つまり仕事でありビジネスを支援することの大切さを学んだのです。それで、ビジネスを通じて開発途上国の企業を支援したいと、JETROに入りました。実際は、日本進出する企業を支援する部署で、欧米企業への支援が中心でしたが、さまざまなビジネスや支援のあり方を学ぶことができましたね。

個人の行動を後押しするようなワークショップや絵本に取り組むきっかけとなったのは、ドイツでの暮らしです。ドイツから帰ってきたときに日本社会の課題が感じられて。大事な選挙での投票率の低さや、ベビーカーや車いすなどで困っている人がいてもすぐに周囲から声がかからない、小さなところでは、自転車が道端で派手に倒れていても誰も直さないとか。一見ばらばらのことのようですが、背景には「自分の行動で社会が変わる」という意識の低さがあるように思います。フェアトレードは、消費を通じて、自分自身が社会や未来を変えるためにできる行動です。フェアトレードを通じて、自ら選び取り社会を変えていけると伝えたくて、活動を始めました。

ドイツのマーケットの風景。パラソルの下に果物が並ぶ

ドイツでは、街中でも気軽に声をかけて助け合う文化や、オーガニックやパッケージフリー、エコバッグなどが当たり前の消費文化がある。

ーご経験が今につながっていますね。ところで、「サステナブルな働き方」もENWに出会ったときのポイントだったとのこと。サステナブルな働き方のために何を意識していますか?

一つは、子どもとゆっくり過ごす時間を大切にすることです。自分の時間軸だけを優先するのではなく、家族の時間軸にも付き合いたいな、と。最近、1歳の末っ子が、登園前に靴を隠して遊び始めることがあって。勤務場所や時間が固定されている会社に勤めていたら、「9時に絶対オフィスに行かないと!」というプレッシャーから、本来はゆったりとした時間軸で生きている1歳児を、大人の時間軸でただ急かすしかないのですが、今の働き方なら少しは付き合ってあげられます。小学生の子どもたちとも、ほっと一息話す時間を大切にしています。

ENWが働く時間や場所に対して柔軟であるからできるんですよね。もちろん、成果を出すのが前提ですが。3人の子育てをしていると、それぞれに色々なことが起こる毎日ですが、自分自身で業務の進捗や成果を意識しながら、ワークライフバランスをうまく調整できるのもENWの魅力の一つですね。

あとは、自分のキャパシティをきちんと理解することでしょうか。仕事をこれ以上詰め込んだら、子どもに優しく接せない、というラインを意識して、調整しています。最後に、頼れるところは頼ること。両親や家族、そして一緒に子育てをしてきた近所の仲間の存在は本当に大きいです。大変なときに、子どもを預かってくれたり、ご飯を作ってくれたり。足元の地域で、助け合える関係性を作ることは、大人にも子どもにもとても大切だと思います。

緑豊かな水辺と子ども

子どもたちとのんびりする時間を大切に、ライフステージに合わせて柔軟に働き方を変えていきたいです。

ー最後に、これからチャレンジしたいことを教えてください。

これまでの活動で何を大切にしてきたか、あらためて考えると、「シチズンシップ」と「多様性」だと思います。この2つは、これからも追求していきたいです。すべての人は凸凹で、グラデーションのようにつながっている多様性の一部です。こうした意識を醸成し、誰もが生きやすい社会になるよう発信していきたいですね。

また、シチズンシップに関してこれからも伝えたいのは、小さなことであっても「自分の行動で社会が変わる」という意識です。身近な問題から世界の課題まで、この意識さえあれば、一人ひとりの行動が積み重なり、やがて大きな変化が生まれます。仕事を通して企業や個人に、非営利の活動を通して学校や地域に働きかけるなど、さまざまなアプローチをしながら、社会全体に変化の波を作るきっかけになれたらと思っています。(取材日20/11/24)

 

宮原 桃子

日本貿易振興機構(JETRO)にて海外企業の日本進出支援、フェアトレードブランド「People Tree」にてバングラデシュ・インドなどでの生産管理・現地支援に携わる。ドイツでの子育て生活を経て、帰国後は、フェアトレード絵本「ムクリのにじいろTシャツ」の制作や、フェアトレードを学ぶ親子ワークショップを開催する団体「フェアトレードガーデン世田谷」の運営、世田谷区でフェアトレードタウンを目指す「フェアトレードタウン世田谷推進委員会」に関わる。2018年よりエコネットワークスに関わり、主にサステナビリティ関連の企業報告書や社員啓発・対外向けコンテンツなどのライティングを担当。オフの楽しみは、「アウトドアや小旅行、公園などで、子どもたちとのんびり遊ぶこと」と「美味しいインドカレーや焼き菓子のお店を訪ねること」。

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