/ 翻訳者

前田 真砂子さん Masako Maeda

環境にまつわる意思決定の裏方 翻訳を全力で!

翻訳者として活躍する前田 真砂子さん。エコネットワークスでは、英日・日英翻訳のほか、チェック、コーディネーションなど様々な案件を担当しています。ライフイベントに応じて悩みながらも柔軟に働き方を変えてきた前田さんは、今、「体力が続く限り翻訳を続けたい。ようやくその覚悟ができた」と話します。環境関連の実務翻訳の面白さや、これまでの歩み、生活に根付いたというゼロ・ウェイストについて聞きました。

前田 真砂子さんが執筆した記事の一覧はこちら

まえだまさこさん

ーエコネットワークス(ENW)ではどのようなお仕事をしていますか?

和訳や英訳を主に担当しています。NGOからENWにご依頼いただく案件では、調査報告書やブリーフィングペーパーなどを和訳しています。最近は、森林破壊や気候変動を加速させている銀行業務に関する資料を担当しました。また、クライアント企業が自社内に配信するSDGs関連ニュースの案件では、ENWのライターが執筆した日本語記事を英訳しています。

ー今のお仕事をどのように感じていますか?

自分が翻訳した資料が誰かの意思決定に影響を与えるかもしれませんから、いつも大事なお仕事をさせていただいていると思っています。特にNGOからのご依頼については、関連する報道を目にする機会も多く、NGOの皆さんの努力が社会を動かしていることを肌で感じます。私自身、環境問題になんらかの形で関わりたいという思いがずっとあるので、自分の価値観に近いお仕事をできるのはうれしいです。翻訳で間接的にでも役に立てたらと思います。

ー環境やサステナビリティには、もともと関心が?

はい、中学生のときに読んだ新聞記事がきっかけで。一面の連載記事で、当時話題となっていた環境問題をセンセーショナルに取り上げたものでした。その頃の新聞はほとんど白黒でしたが、酸性雨で立ち枯れした森や破壊される熱帯林、工場から立ち上る黒い煙などの写真がカラーで大きく掲載され、それはもう、衝撃で。なんとかしないといけないと強く思うようになりました。それで、大学では森林科学を学びました。

ー卒業後はどうされたのですか?

建設コンサルタント会社で環境アセスメントの仕事に就きました。でも、調査に入った現場が「環境への影響は軽微」という最終判断のもと開発されていくのを見て、無力感でいっぱいに……。もやもやした思いを抱える中で、だんだん新しいことに挑戦してみたいと思うようになったのです。

調査に入ったオオタカの住む山

もともと英語が好きで、社会人になってからも英語の勉強を続けていたので、心機一転、カリフォルニアに留学することにしました。ちょうど、スタートアップがシリコンバレーに次々と生まれていた時代。ITを専攻したのですが、授業がすごく面白くて夢中になりました。留学を終えて帰国してからは、米系企業でシステム開発のプロジェクトマネジャーとして働きました。

サンフランシスコ フィッシャーマンズワーフの様子

留学中に授業で現地企業・団体の事業活動をリサーチ。そのときにプレゼンテーマに選んだNGOの翻訳案件を、めぐりめぐって今お手伝いしています。

ーまったく畑違いの職に就いたのですね。

そうなんです。多国籍の職場で、システム開発もプロジェクトマネジメントも楽しく充実していました。中国、シンガポール、インド、アメリカへの研修や出張、タイへの赴任など、チャンスもたくさんいただいて。でも結婚・出産を経て、夫の仕事の関係で茨城のつくばに住むことに。乳児を保育園に預けながら都心まで通うのは、とにかく大変でした。当時は前例のなかった在宅勤務を認めてくれるなど、会社の支えもあったのですが、思うように仕事をできないもどかしさが募るばかり。大きな決断でしたが、辞めることにしたのです。

ーそれは残念でしたね。

でも、これが本格的に翻訳者を志すきっかけとなりました。子どもが小さかったので、自分のペースで働ける仕事がしたいと思い、まずは自宅から徒歩圏にある研究機関で、ライフサイエンス分野の研究者のアシスタントとして働くことにしました。学会資料の英訳や国際会議のコーディネーションなど、英語全般のサポートです。そして仕事のかたわら、ずっと前からやりたかった翻訳の勉強を始めました。実は私は活字中毒でして、言葉や文字がとにかく好きなんですね。翻訳には留学前から関心があって、専門誌を定期購読していたほどで。2人目の子どもの産育休を挟みながら、仕事と翻訳の勉強を続けました。

ーその過程で、二口 芳彗子さんが講師を務めていた翻訳講座に?

そうです。2012年でした。ENWのトライアルにも合格して、パートナーになりました。2013年3月末、上の子が小学生になるタイミングで研究機関を退職し、フリーの翻訳者に。ENWのほか数社に登録して、環境・IT・ライフサイエンス分野の実務翻訳をするようになりました。紆余曲折の経歴がひとつも無駄にならない、大好きな仕事にようやくたどり着けた! という感じです。ENWでは、和訳や英訳のほかにも、サステナビリティレポートの英語版制作のような大きな案件のプロジェクトマネジメントなど、非常に良い経験をさせていただいています。

ーENWとは雇用契約の時期を挟んで、2年前から再び業務委託のパートナーになられました。再びフリーになって、今、何を思いますか?

強く感じるのは、スキルアップを続ける重要性です。自分に足りないものを意識して、英文解釈の本をあらためて開いたり、トライアルなどで評価を受ける機会を作ったりしています。

それから最近は、ご依頼をいただいたときに、少し無理をしてでもお受けするようになりました。ある時、これまでだったらお断りしていたような分量と納期のお仕事を受けてみたのです。すると、自然と間に合わせる方向へと生活が向かうんですよね。家族も協力してくれたりして。できる前提で考えればできるんだ、と目が覚めました。

ーなるほど。それから前田さんといえば、ゼロ・ウェイストに取り組んでいるとか。

ゼロには程遠いのですが、チャレンジを続けています。「レス・ウェイスト」ですね。『ゼロ・ウェイスト・ホーム』という本に出合って、実践を始めてから、もうすぐ2年。すっかり生活に根付いています。量り売りやバラ売りを買ったり、プラスチック包装の少ない商品を選んだり、楽しいですよ。

前田さんのゼロ・ウェイストの取り組みについてはこちら:楽しく、ゴミを減らす。

野菜や果物はなるべく無包装のバラ売りを購入

ー「楽しい」というのはいいですね! 最後に、これから挑戦してみたいことを教えてください。

引き続き、全力で翻訳に取り組みたいです。実務翻訳は、短い期間で成果物を作り、社会への働きかけにつながるところがすごく好きです。特に、NGOが発表するドキュメントの翻訳には、これからも積極的にかかわっていきたいです。あとは、出版翻訳に挑戦したいですね。こちらは長期戦になりますが、1冊の本を訳すのはやはり憧れ。オーディションにも積極的に挑戦したいと思っています。

最近、「翻訳」という仕事がやっと少しわかってきた気がします。体力が続く限り、翻訳を続けたい。そんな覚悟もようやく持てたところです。もっともっと腕を磨いて、長く続けていきたいですね。(取材日21/4/27)

渡嘉敷島の海岸

大好きな海と島へ、次はいつ行けるかなと心待ちにしつつ、 今日も机に向かっています。写真は2019年、渡嘉敷島にて。

前田 真砂子

建設コンサルタント会社に勤務後、留学を経て米国企業の日本法人へ。結婚・出産を経てつくばに移り住んでからは国立研究所に転職。仕事のかたわら翻訳の勉強を始め、2013年にフリーランスの翻訳者として独立。環境、IT、ライフサイエンス分野での多様な実務経験を武器に、英日翻訳、日英翻訳を手掛ける。最近また、何度目かの(笑)ジョギングに挑戦中。

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