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古田 綾子さん Ayako Furuta
言葉を通じて、ささやかな変化や前進の一助になりたい
翻訳者として、企業やNGOが発行している報告書の和訳や英訳チェックを手がける古田綾子さん。エコネットワークス(ENW)と働く理由や、これからについてお聞きしました。
古田 綾子
南山大学外国語学部英米科を卒業。外資系ホテルで秘書として勤務した後、バンドでインディーズデビューし、アルバム3枚をリリース。レコード会社との契約満了後、プロの翻訳者になるために勉強を始め、フリーランス翻訳者に。2009年にビジネス・一般分野の翻訳者としてキャリアをスタート。欧州のグリーン調達関連文書や月刊酪農専門誌の翻訳業務をきっかけに環境分野への関心を深める。エコネットワークスの翻訳講座を修了後、2021年6月よりパートナーに。
「怒り」だけでは社会を変えられない ミュージシャンから翻訳者へ
―これまでのキャリアについてお聞かせください。秘書からミュージシャンと、一見まったく異なるように見える世界にキャリアチェンジされたのですね。
大学卒業後は、外資系ホテルで語学のスキルを活かしながら秘書として働いていました。ただ、20代でやり残したことはないかと考えたとき「ミュージシャンを目指してみよう」と思ったのです。小学生の頃には作詞をしていたほど、昔から言葉が好きでした。母親も趣味で文章を書く人だったので、その影響もあったかもしれません。人生は一度きりなのでやりたいことをやろう、と退職を決意。退職願には、「ミュージシャンを目指すため」と書きました。目標を周囲に宣言することで、それを叶えるために自分自身をより追い込むことができると思ってのことです。
―実際にデビューを果たし、アルバムも出しているのですね。
はい。大阪の地元紙で作詞家を募集しているのを友人が見つけてくれ、すぐに応募したのです。私は目標を達成するために、ベストなシナリオを考えて、やれることは全部やっておこうという考え方なので、プロデューサーとの面談にデモテープと写真を持参し、「バンドでデビューしたい」と掛け合いました。そこから5年間は、地元を離れ大阪に移住して、作曲やレコーディングに専念しました。
―その後、翻訳者に転身されたとのことですが、理由は何だったのでしょう。
20~30代の頃は、社会に対する漠然とした怒りがあって、それを歌詞に昇華させていました。ところが、年齢を重ねるにつれて、怒りだけでは社会を変えることはできないと感じるようになり、むしろ、社会のために何かできないかと考えるようになりました。自分にできることとして浮かんだのが、語学を活かした仕事だったため、そこから翻訳学校に通い、2009年にビジネス・一般分野のフリーランス翻訳者としてキャリアをスタートさせました。
キャリアの軸にあるのは、常に「言葉」

―環境分野に関心を抱くようになったきっかけを教えてください。
欧州のグリーン調達関連文書や月刊酪農専門誌の翻訳業務をきっかけに環境分野への関心を深めるようになりました。特に、欧州では環境の法規制をめぐる様々な動きがあり、心惹かれました。翻訳者として、これからの社会のあり方に大きな影響をもたらすこの領域に携わることができれば、自分がこの世からいなくなった後も次世代に何かを残せるかもしれないと思ったのが、その理由です。
―ENWとも、2021年頃からご一緒いただいていますね。
環境分野で知見を深めようと翻訳講座を探していたところ、ENWの「サステナビリティ翻訳トレーニング」講座を見つけました。トライアルを受けた後、2021年6月からご一緒しています。ENWの設立者が、私がその訳に感銘を受けた「不都合な真実」(元米国副大統領、アル・ゴア氏が環境問題の知られざる真実を伝えた書籍)の訳者である枝廣淳子さんだと知り、「絶対にこの会社と働きたい!」と思っていました。ですので、ご一緒できたときは本当に嬉しかったですね。
―現在、ENWではどんな仕事を担当されているのですか。
最初に担当したのが、気候NGOの月刊レターの和訳でした。以降、GRI(Global Reporting Initiative)スタンダードやNGOが発行している報告書の和訳などを担当しています。また、最近ではメーカーのサステナビリティレポートの英訳チェックなども行っています。
その中でも特に印象に残っているのが、あるNGOが発行した報告書の和訳の仕事です。日本、韓国、インドネシアにおける木質バイオマス発電所によるペレットやチップの需要が、熱帯林を脅かしていることを警告する報告書でした。日本では現状、バイオマス発電は「ネットゼロの実現に寄与する良いもの」というのが一般的な認識であり、そのリスクには目が向けられていないように感じます。その認識を覆すためには、いつも以上に細部にまで神経をいきわたらせ、丁寧に訳す必要があると感じました。言葉は、言い回しひとつで、その意図が伝わるかどうか、受け入れられるか否かが決まります。読者が立ち止まって考えるきっかけになるような言葉を届けたいと思い、同報告書の翻訳にのぞみました。
―古田さんは、「言葉」をとても大切にしている方だというのが伝わってきます。
外資系ホテルでの秘書、ミュージシャン、そして翻訳者とこれまで歩んできたキャリアを改めて振り返ると、その軸にあるのは「言葉」だと気づきました。「言葉を通じて、ささやかな変化や前進の一助になること」が、私の存在意義(Myパーパス)だと感じています。
AI時代に、人間が生み出す「価値」を見出し発信する
―昨今では生成AIの進化がめざましく、機械翻訳が普及することで翻訳者への仕事の依頼が減るかもしれないといわれています。
翻訳の領域でも、AIは日々進化しています。とはいえ、生き残る翻訳者は必ずいるはずです。私自身の考えや実践についてお話ししますと、現在、様々なツールを試しており、AIを活用して効率化を図りつつ、人手による翻訳の価値をどのように生み出して、どう伝えていくかを考えています。翻訳者の中には、言葉を大切にしているがゆえに機械翻訳に抵抗を感じている方もいらっしゃるかと思います。けれど、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という言葉のとおり、戦いに勝つためには、敵を理解した上で、自分自身に何ができるかをまず知ることが第一歩です。その上で、相手(AI)にはできないが、自分にはできることを付加価値として伝えていくことが大切だと考えています。
―AIにできなくて人間にはできるという点で、見えていることがあれば教えてください。
スピードではAIには、到底かないません。では、人間にしかできないことは何か……1つ目は、「違和感を察知する能力」です。AIによる翻訳で、違和感のある箇所を見つけて、その原因を追究すること。最終的に、どういった言葉や表現がよいかは自分自身で判断し、その理由を明確に説明できることが重要です。
2つ目は、「話し手の思いを原文と同じ熱量で伝えること」です。AIで訳すと言葉は置き換わっているものの、熱量まで伝わる文章になっているのか疑問が残ります。ENWでご支援している経営トップのメッセージ翻訳などでは、原文の熱量を伝えることが重要です。真意をくみ取り、伝える相手を意識して言葉を選ぶ必要があります。そのためには、日本語と英語、両方の言語で、その言葉がどんな温度感を持つのかをしっかり理解しておくことが大切だと考えます。
―ENWは「Foster Team Sustainability together, everywhere.」というパーパスを掲げ、サステナブルな社会の実現に向けて意思のある人たちとつながり、変化の波を起こそうとしています。古田さんのこうした取り組みが、ENWのパーパスの実現にどうつながっていくと思いますか。

ENWのパーパス
AIがいくら進化しても、人間がやることの意義を考え、見出さなければ、翻訳者は生き残れません。少し話は変わりますが、ENWのパートナーの中にすごく惹かれる文章を書くライターさんがおり、あるとき彼女がクライアントから指名を受けていました。それを知ったとき、私も「この人だからお願いしたい」と思われる存在になりたいと強く思いました。バンド活動をしていたときも、同じように「この人が歌うから伝わるものがある」と感じることがあり、良いものを良きタイミングで、しかるべき人が発信することで、より多くの人に伝わるのだと感じました。いつの時代にも選ばれる人になるために、言葉を軸に自分にしかできないことを模索・追求していきたいですね。
差別化といったときに、現状避けて通れないのがAIの存在です。ENWとご一緒している翻訳者の一人として、人間にしかできないこと・その価値を見出して、発信することができれば、ENWを選んでくれる人も増えるはずです。これまで以上に多くの企業やNGOなどとつながり、言葉を通じて働きかけることで、個人や組織、ひいては社会のささやかな変化や前進の一助を担っていければと考えています。
(取材日:2025/5/28)