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“働き方に関する共通の価値観”はどうやって形づくられているのか?
昨年8月に「サステナブルに働くためのヒント集」を作成するエコネットワークス(ENW)のプロジェクトに参加し編集・執筆を担当しました。公開後、社会保険労務士としての仕事の中で、他の組織にこのヒント集の紹介をすると、「“働き方”に関する共通の価値観が明文化できることが素晴らしい」「事業のビジョンは共有できても、個人の働き方や暮らし方に関して、共感し合える考え方を定めるのは難しい」という反応があり、改めてふと思ったことがあります。ENWという組織の土壌にあり関わる人たちに共有されている価値観、いわば共通の文化のようなものはどういう要素で成り立っているのだろう。全員がリモートワークというスタイルを長年続け、複業で関わる人も多い中で、お仕事の依頼・納品だけではない、ネットワーク型とでも言えるような文化が醸成されてきた秘訣はどこにあるのか。
2018年からENWのワークルール集の整備に関わり、組織的な観点と個人の観点の両方から“自律的な働き方”をどう実現するか、という取り組みに参加してきた筆者の立場から、この組織の文化や価値観を形づくっている特徴的な要素の一部を考察してみました。
執筆:星野美佳
社会課題解決に取り組む人のための社労士事務所「サステナ」代表。
2018年からENWに関わり、個をベースにしたネットワーク型組織ならではの、自律的な働き方について議論の場づくり、環境整備に取り組んでいる。
「組織」より先に「個」の尊重
ENWに関わるパートナーの共通の価値観の土壌となっているのは、「サステナブルな社会を実現する」ために、仕事だけでなく自身の暮らしやキャリアも「自らサステナブルに変化しよう」とする姿勢です。(詳しくはENWのミッション・スピリットのページへ)
「組織」としての歴史や経営思想などを組織文化として社員に浸透させようという組織は多いですが、ENWでは”この組織の構成員である私”以前に、仕事や暮らしの時間を行ったり来たりしながら生きる一人の個人としてサステナブルであろうと働きかけています。
「個と組織の垣根を低くする」「個が輝き、そしてチームが輝く」「個の自律を応援する」ことを経営のチャレンジとして取り組んでいるところが、ENWの面白いところだと私は思います。
境目が曖昧な“中間点”に居場所がある
筆者がENWに関わるようになった動機も、「個と組織の新しい関係を模索する」チャレンジに共感し、“働き方”をもっと自由にする取り組みに社労士として加わろうと考えたからです。そしてENWのパートナーとして関わって驚いたのは、様々な“中間点”があること。
仕事と暮らしや遊びの中間、オンとオフの中間、同僚と友人の中間、雑談と対話の中間、雇用と委託の中間…。
ENWではその中間の存在をネガティブな領域としてではなく、ポジティブな位置付けで積極的に認めて共有する姿勢が特徴的です。そういう中間にこそ面白さや新しさ、ワクワク感があって、“白でも黒でもない時間”、“どの立場でもない私”にも居場所がある、と私には感じられます。
(例えば仕事と暮らしや勉強の間にある“シェア会”、について詳しくはこちら)
自分を知り、相手を気遣う
小さなことですが、ENWのパートナー同士のメールでは、相手を気遣う言葉を入れることが多いのも特徴的です。自分の近況を入れたり、相手の状況に配慮したり。「私のコンディションを知ろうとしてくれている」と感じられる一言が「自分は尊重されている」という実感につながり、「ここでは自分事を話してもいいんだ」という安心につながっている、と私は思います。
同時に驚かされるのは、「私はこういう時こうしてますよ」という、自分を省みる時のヒントをたくさんの人からもらえることです。筆者も、メールの文面で「煮詰まってるな」と察してもらったことが度々あります。「私はこういうタイプだからこういうことに気を付けてるの」「ストレスがたまった時、煮詰まった時はこうやって気分転換してるよ」とさりげなく教えてくれる優しさには涙が出てしまうこともありました。
こうしたやりとりから、対面で会ったことはなくても、日々のやりとりで相手のコンディションに敏感になっていれば、ちょっとした行間に「ヘルプ!」というメッセージを読み取れるのだ、と教えてもらいました。
決めるのは、常に自分
ENWのワークルール集の中には、「働く時間も休む時間も自分で決める」という一文があります。
ENWではフレックスタイム制を導入して、月々の目安時間を定めた上で、日々の労働時間の決定は個人に任せているので、あえてこの言葉を入れています。その背景には、“時間の使い方”に対して、一人一人がオーナーシップを持とう、という考えがあります。私たちの時間は、決して仕事中心ではありません。一日は「仕事時間」とそれ以外の「休み」に分けられるのではなく、休みの中にも、家族のケア、自分のケア、地域の仕事など、たくさんの“仕事”があります。
“自分の時間の使い方”、“時間の優劣”はその人にしか決められません。だから、仕事の時間を自身の暮らしの中でどう位置付けるのか、時間の使い方を自分で決めることが大事になってくるのです。
時間の使い方だけではなく、ENWという組織とどれくらいの距離感を持って仕事するか、誰とどんな案件で仕事をつくっていくかまで、決めるのは常にその人自身に委ねられています。
共通のルールや方向性は設けた上で、最終的な判断は個人に委ね、組織はその判断を信頼し尊重する。ルールで縛るのではなく、個人の裁量に任せるからこそ、組織との信頼関係ができるということもENWの取り組みの中で私は実感しました。
ゆるやかな川のようなコミュニティで成長し合う
これからの時代、色々な“境目”はさらに曖昧になっていき、混沌とした状態の中から新しいアイデアが生まれてくると私は思います。これからの“組織”は、きっちりした箱のような組織ではなく、ゆるやかに流れる川のようなコミュニティになっていくのかもしれません。
多様な個人がいるのと同様、多様な組織のあり方があり、同じ組織で仕事をしていても、“共通の価値観がある”なんて言い切れないのかもしれません。
でも、関わるメンバーとの間に共通の価値観や考えを持つことができたら、それはそのチームのオリジナリティになり、共感する人たちをさらに集めることができます。
仕事、暮らし、組織、個人…いろんな観点がミックスされた状態に焦点をあてながら、関わるメンバーとの間に共通の方向性を探ってきたENWの取り組みには、他の組織から見てヒントになることがたくさん隠れていると私は感じています。ENWの新しい組織と個人のチャレンジをこれからも応援していきたいと思います。
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