【対談】代表の育休とコロナ禍から考えるこれからの働き方

2020 / 7 / 30 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks

エコネットワークス(以下ENW)では代表が3カ月間の育児休暇を取ろうとした矢先、社会全体がコロナ危機という大きな混乱に見舞われました。この2つの「非日常」はENWにとってどんな意味があったのでしょうか。経営の中枢を担う2人のメンバー、代表取締役社長/CEOの野澤 健さんと取締役の二口 芳彗子さんがこの数カ月をふり返り、これからの働き方、ENWが目指すビジョンについて語り合います。


インタビュー・執筆:小島 和子
生まれも育ちも東京のフリーランス。編集・執筆・出版プロデュースが得意。


●あえて仕事をゼロにしない育休の形

──まずは野澤さん、いよいよ育休から復帰ですね。この3カ月はどんな日々でしたか? 育休に入る準備や休暇中のこと、また復帰してみて思うことをぜひ共有ください。

野澤:出産予定は3月初旬でしたが、いつ生まれて仕事を離れてもいいように、2月中旬ごろからは仕事の段取りにものすごく気を配っていました。ENWにとってこの時期は繁忙期ですから、毎日優先順位を整理していました。
無事出産後、母子が退院してきてから、「2オペ」体制での育児が始まりました。パートナーの皆さんは子育て中の方が多いので、その大変さを話に聞いてはいましたが、聞いているのと体験するのとでは大違いです! 基本怒ったりしないのですが、ぜんぜん思い通りになってくれない我が子に、久しぶりにイライラするという感情に直面しました(笑)。

二口:そうそう、子どもは親の思い通りにならないんですよ。寝たければ寝てくれるけど、起きたいときに起きちゃうし。私は自分の子育てのときは、半ば諦めモードでした。

野澤:それで「ジーナ式」という育児法を取り入れてみました。子どもが寝る時間や授乳スケジュールなどを割ときっちり決めて、生活リズムを習慣化するという育児法です。毎日かなり細かい時間割(写真参照)に沿って生活を回してみたら、うちの場合は割とうまくいって、少しペースがつかめてラクになりました。

1日のスケジュール

1日のスケジュール

二口:そんな育児法があるんですね。初耳です。でも、野澤さん、多少は仕事もしてましたよね? いくらジーナ式とはいえ、大変じゃありませんでした?

野澤:最初は3カ月間、仕事は完全にオフにしようと思っていたんですが、結果的に少し仕事はしていましたね。仕事をすることで気分転換にもなりましたが、やってもやっても終わらなくて(笑)、ストレスに感じたこともありました。それで4月に入った頃に発想を切り替えて、「育児はまだ始まったばかり。一時的に仕事をゼロか100かとするよりも、これからの長い道のりの中で、仕事と家庭生活とのバランスをその時々で調整していこう」と考えるようにしました。

二口:自分なりのバランスを試しやすいのも、リモートワークのいいところですよね。

野澤:ジーナ式を試しながら、夫婦それぞれが1日の中で2時間の自由時間を取れることをまず目指し、僕はその時間の一部を仕事に当てていました。結果、月に30時間くらい働いていましたね。クライアントに「育休中に失礼します」とメールしたり、「育休中なのにレスポンス早いですね!」と言われたり。自分でも「育休」って何だろうなと思いました(笑)。
途中からは「育児を最優先で、仕事は今やらないといけないことだけ必要最小限やる。すぐに対応できなくても仕方がなく、仕事相手にも納得してもらっている」というモードが育休なのだと位置づけました。リモートワークが広がり、仕事と暮らし、オンとオフの境目が曖昧になっていく中で、仕事時間をどう定義し、仕事相手と共通認識を持つかは、あらゆる人にとって今後重要になってくるテーマだと思います。

 

野澤 健

野澤 健

●組織として長期休暇に備える

──完全オフでないとはいえ、基本的には代表が3カ月間も不在だったわけですよね。留守を預かる立場として、もう一人の経営メンバーである二口さんに負担はありませんでしたか?

二口:実は12月ごろの段階では少し不安を覚えていました。私一人で大丈夫かな、と。でも、野澤さんが育休に入る前に、組織として情報や業務の見える化や、責任範囲・意思決定プロセスの明確化も意識して進めつつ、パートナーさんたちにも業務を分担いただけるよう段取りができたので、結局は大きな心配はしないで済みました。こうやって、どんどん分担していくという方法は、育休に限らずどんな長期休暇にも、不測の事態に対応する必要がある場合にも有効ですよね。

野澤:実は僕がまとまった休暇を取るのはこれが4度めです。ここまで長いのは初めてでしたが、2015年には1週間半の休みを取ってモロッコへ、2017年と2019年には「サバティカル休暇」と称して、3週間の休みを取ってブラジルや婚前旅行でカリブ海に出かけたことがあったんですよ。事前にクライアントやプロジェクトメンバーと綿密な調整をしていたので、休暇中は毎日わずかなメール対応をするだけで済みました。

二口:ええ、だから組織として、ある程度のシミュレーションはできていましたね。今回も一人で抱え込まずに、必要に応じて適切な方に相談したうえで、いろいろな経営判断をしていました。
思えば私も体調を崩して8カ月間のお休みをいただいたことがありました。あの休暇中、日頃は私が担当している言語事業の経理まわりの管理方法を野澤さんがアップデートしてくれていて、復職後にすごく助かったのを覚えています。とかく真面目な人ほど「自分がいないと仕事が回らない!」って抱え込んでしまいがちですけれど、そんなことは全くありませんよね。

二口 芳彗子

二口 芳彗子

●コロナで働き方は変わったか?

──今回は代表の育休に加えて、新型コロナによる感染症の流行が重なりました。かなりイレギュラーな対応を迫られる場面もあったのではないでしょうか?

二口:この3カ月で私が担った経営的判断としては、パートナーさんとクライアントへのメッセージですね。パートナーさん向けメッセージの第一弾は2月28日だったので、ここはまだ野澤さんと一緒で、コロナ対策で収入ダウンなどの経済的負担があった方に補助を出すという内容でした。
その後、やっぱりお子さんのいる家庭はなお大変なはず、ということで、4月22日に「子ども手当」のお知らせを発表しました。でもこれも私一人で判断したわけではなく、パートナーさんたちと一緒に考えたものです。

野澤:クライアントへのメッセージは4月7日でしたよね?

二口:ええ、そうです。パートナーさんのお一人から提案をいただいて、例えば対面の打ち合わせやミーティングをオンラインに変えたいという点と、納期に猶予をお願いしたい、とはっきり打ち出しました。皆さん、快く応じてくださり、とてもありがたく感じました。

──リモートワークについていえば、ENWは以前から慣れていたわけですが、クライアントさんたちは初めての方も多かったでしょうから、そのあたりで何かギャップを感じることはありませんでしたか?

二口:クライアントの担当者の方も在宅勤務に切り替えている方が多くて、そのせいか、以前に増してフラットなコミュニケーションが取れるようになったように感じます。
一方で世の中では、複数名でのZoom会議のときに、画面に並ぶお顔の順を上司からにできない?なんて声もあると聞くので、オンラインコミュニケーションの捉え方は、組織カルチャーによって温度差が大きいだろうなと思います。

野澤:それは僕も感じます。対面をオンラインにするという表面的な手法を変えるだけでなく、同時に仕事のやり方を変えていかないと効率は上がりませんよね。例えば、Zoom会議に十数人が出席していながら、実質的に議論に参加するのは2〜3人だけとか。

──その場に「いる」ことが仕事と見なされているのでしょうかね。変わりたいのに変われない組織があるとしたら、ENWが蓄積してきたノウハウを伝えていくことが社会貢献になるかもしれませんね。

野澤:それができたらうれしいですね。特に働く個人の側に立ったノウハウとしては、これまでも2冊の「リモートワーク実践BOOK」で発信しています。ただ、組織側から見たノウハウの発信はまだまだこれからですね。いくら個人が頑張っても、組織側の意思決定や雇用体系、福利厚生などの仕組みが旧態依然としていたら効果がありません。ENWでももっと実践を重ねて、その成果をお伝えできたらと考えています。

二口:リモートワークになっても、いかに「管理」するかに躍起になっている企業もあると聞きます。でも、労働時間で管理するのは限界がありますよね。席についている時間ではなく、何で評価するのかをきちんと提示できるといいのでしょうね。

野澤:ENWの場合、正社員である雇用パートナーとは、打ち合わせの予定など、最低限のスケジュール共有はしています。でも、例えば「何時から何時まで何をした」といったことまで共有し合うことはありません。

二口:その代わり、「今日はどのプロジェクトに何時間使った」といった記録は各自でとっておき、それを共有することはあります。でもそれは、誰かが誰かを「管理」するというより、セルフマネジメントの意味が強いですね。

小島 和子

小島 和子

●ENWが目指す「ニューノーマル」の姿

──世間では盛んに「ニューノーマル」に向けた取り組みが報じられていますが、その象徴であるリモートワークについて、ENWは既に導入済みですよね。そうなると、ENWがこれから目指すべき「ニュー」の姿はどういうものになるでしょうか?

野澤:そこはまさに考えていきたいところです。ENWは9月が年度末なので、そこまでに中長期的な次の方向性を見いだせたらと思っています。
個人的なことでは、復帰後もしばらくは時間数を半分に減らした時短勤務にすることにしました。これまでは男は仕事、女は家庭、に加えてさらに仕事も、と男女の役割が固定されていましたが、本来はそれぞれが家庭の中と外、両方で役割を担っていくことが望ましいと思うんです。家庭の外といっても、狭義の「仕事」だけでなく、僕自身は、もう少し地域やコミュニティにも関わっていけたらと考えています。暮らしのセーフティネットを高めるためにも、お金に換算できない「資本」の充実に時間を費やしたいなと考えています。

二口:パートナーさんたちの中にも、ユニークな「資本」をお持ちの方が多いと思いますよ。皆さんの個性をもっと引き出せたらいいのかもしれません。

野澤:そうですね。また、最近改めて考えているのが「自立・自律って何だろう?」ということです。ENWは組織カルチャーとして「個の自立・自律」をすごく大事にしていて、おかげで本当に自律的に動いてくださる自立したパートナーさんが集まっています。だからこそ、このコロナ禍にあっても、大きな混乱なく事業を続けることができました。

──でも逆にいえば、「自立・自律」できる方としかご一緒できていない、ということですか?

野澤:そうかもしれません。自分の育休とコロナ禍という2つの「非日常」には、実は根底の部分で重なるものがあるなと感じました。ENWが多少スローながらも事業を回せていた裏側には、社会のインフラを支えてくださっている方がいて、そうした方々の存在があって初めてリモートでの自立・自律した働き方が成立していたわけですし。また僕が育休を取れたのも、一緒に働く仲間の助け合いがあってこそです。

──「自立・自律」は決して一人でできるものではない、ということですよね?

野澤:ええ。他人や社会とのつながりを抜きにして「個の自立・自律」は語れないし、語るべきではないと思います。孤立したり内輪に閉じたりするのではなく、共助の関係や社会に開かれたあり方を考えていきたいですし、もっと社会の多様性に対しても、扉を開いていきたいという思いを強くしました。それがENWという組織としてのレジリエンスを高めることにつながるでしょうし、社会のレジリエンスへの貢献にもなるのかなと思います。

二口:そこはチャレンジですよね。多様性やレジリエンスは、本当に大切にしたいです。パートナーさんたちだけに限ってみても、働く環境が本当にまちまちなんだなと「子ども手当」のやりとりで改めて感じました。お子さんの年齢によっても、また住んでいる国や地域によっても、置かれた状況はさまざまですから。

野澤:立場によっても違いますよね。育児に伴う経済的な支援も、会社員は手厚いけれど、フリーランスだと手薄とか。僕も役員の立場なので、社会保険の育児休業給付の対象ではありませんでした。そうした立場を越えてサポートできる仕組みや、例えば「お助け組合」のような形で、何かしら支え合いの仕組みをつくれたらいいな、とも思っています。

二口:ぜひ取り組んでみたいです。パートナーさんも、「もっとこうしたらいいんじゃない?」といったアイデアがあれば、どしどし寄せていただきたいですね。

野澤:本当にそうですね。年度末に向けて、また皆さんともディスカッションしていけたらと思います。

 

*本対談は2020年7月3日にオンラインで開催されました。パートナー間でコロナ禍の経験や思いをシェアする意味も兼ね、9名のパートナー有志(うち録画視聴2名)も参加して行ったセッションの一部を構成して記事にしています。

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