「パパ育休」「レインボーロゴ」にモヤモヤ? 当事者との対話から考えるDEIコミュニケーション

2026 / 9 / 15 | カテゴリ: ・ | 執筆者:岩村 千明 Chiaki Iwamura

アンケートの性別欄で「男性」か「女性」の二択以外に、「その他」や「回答しない」といった選択肢を目にする機会も増えてきました。一方で、性的指向・性自認の領域において企業の姿勢に変化が見られること自体は喜ばしいものの、その内容にはモヤモヤを感じるといった当事者*の声もあります。

各社が推進するDEIや人権に関する施策は、果たして実態や当事者のニーズに即したものとなっているのでしょうか。本記事では、LGBT-JAPAN代表・田附亮さんにお話を伺いながら、DEI施策やコミュニケーションのあり方について考えます。

*一人の人間の中には多様な側面が存在し、人によって感じ方は異なるため、「当事者」という言葉で括ってしまうことで見えなくなるものがあるという考え方があります。本記事では、こうした考え方を前提とした上で、特定の属性を持つ方が直面する社会の構造的な障壁に焦点を当てるため、あえて「当事者」という言葉を使用しています

 

▼話者プロフィール

LGBT-JAPAN 代表 田附亮さん
生物学的には女性で生まれるが、自身の事を男性として認識しているトランスジェンダー男性。「LGBTsが個性として当たり前に存在する社会へ」を掲げ、企業向け講演・研修プログラムの提供やLGBTsカスタマーサポートなどを手がける。これまでの経験と知見を企業の実践に落とし込む活動に注力しており、現在はクィアエコロジー + 生物多様性をテーマにした取り組みも推進。

「パパ育休」、そこに含まれない家族もある

厚生労働省は、男性の育児休業取得を促進するため「産後パパ育休」といった呼称を用いており、多くの企業も社内制度や広報でこの呼び方をそのまま採用しています。ジェンダー平等の実現に向けて、男性の育児休業取得を促進すること自体は社会にとって重要な取り組みです。制度名に「パパ」を入れることで、誰を対象にした制度なのかが明確になり、男性の育児休暇取得を大きく後押しするきっかけにもなっています。

一方、このように分かりやすい呼称を用いてコミュニケーションをする際には注意が必要です。

LGBT-JAPAN 代表 田附亮さん

LGBT-JAPAN代表の田附亮さんは「多様な家族のあり方を前提とした表現になっていない」と指摘します。「例えば、ママが二人いる家庭など、そもそも『パパ』が存在しない家族の形もあります。分かりやすい言葉で対象を区切ることは、結果としてその前提に当てはまらない家族を、制度の外に置いてしまうリスクがあるように思います」

産前・産後は十分なケアが必要な期間であり、そこに対して企業がしっかりと理解を示し、父親が休みを取りやすい体制・環境を整えようとする姿勢は、女性にとっても「大切にされている」と感じられるものです。対象を明確にすることは、コミュニケーションを取る上で重要ですが、そこに含まれない人にどう伝わるかまで考えることも伝え方を検討する上で欠かせない視点だといえます。

「ささいなことのように思えますが、その積み重ねが働く人たちの組織に対する帰属意識や愛着心につながります。裏を返せば、そうした配慮がなされていないことが従業員の離職やエンゲージメント低下につながりかねません」と田附さんは話します。

レインボーロゴ、掲げること自体が目的化?

LGBTQ⁺への支援を示すシンボルとして、ロゴや商品に虹色(レインボー)を使用している企業があります。その中には人権方針や社内研修など自社の考え方や施策を明確に示している企業もあれば、シンボルを掲げること自体が目的化しているように見受けられるケースもあります。

田附さんは「表現自体はNGではありません。ただ、形だけのものになってしまっていないか、施策などの実態が伴っているかという点ではモヤモヤを感じることがあります」と話します。

実態が追いついていない状態で、レインボーロゴや商品を使っていると、意図していなくてもLGBTQ⁺への支援を表面上だけ装う「レインボーウォッシング(見せかけの支援)」と誤認されてしまうリスクがあります。すぐに完全な施策が実施できなくても、一歩ずつ積み重ね、改善に向けた計画を明示することが、表面的でない自社の本気度を示す上では重要だといえます。

方針は掲げていても、現場との間に生まれる差

方針や制度が整っていても、それが社内に浸透しているかは別問題です。

プライドパレードに参加する方が、虹と「GAY(ゲイ)」の文字を組み合わせたデザインのTシャツのプリントを原宿にあるショップに依頼したところ、「性的表現にあたる」という理由で断られたことがSNS上で話題になりました。

この対応について田附さんは「言葉への正しい理解が不足しているように感じる」と話します。

「ゲイ」は性的指向を表す言葉であり、それ自体が性的な表現というわけではありません。企業としてDEIや人権方針を掲げていても、現場への浸透、実際の対応といった面ではまだ課題があることが垣間見えた事例です。

方針を現場にまで浸透させるには、実務レベルにまで落とし込んだガイドラインやハンドブック、研修といった仕組みが欠かせません。同時に、多様な状況や立場に配慮するには、現場の裁量に委ねる部分も必要です。判断の土台となる基準と柔軟さ、双方のバランスをどう保つかが、現場での対応においてDEIコミュニケーションを実現する上でのカギとなります。

実態に即したDEI施策・コミュニケーション実践へ

実態に即したDEI施策やコミュニケーションを実現する上では、多様な立場の人々の声に耳を傾け、その声を自社の制度や商品・サービス、コミュニケーションなどに組み込んでいくことが重要です。

対話を継続的なプロセスと位置付け、それらをDEIの観点から定期的に見直していく。さらに、企業が掲げる方針を実務レベルにまで落とし込んだガイドラインや研修といった仕組みを整備しながら、従業員一人ひとりが柔軟に対応できる知識と経験を積んでいく—-そうした体制を整えることが、リスクの回避だけでなく、企業としての信頼性や価値の向上にもつながっていきます。


エコネットワークスは、企業がDEI・人権に関する対応で「こんなとき、どうする?」と悩んだときに相談できるパートナーとして、伴走支援サービスを提供しています。また、「人権に配慮したDEIコミュニケーション実践ガイド」を提供するほか、企業向け研修やガイドライン策定支援、情報発信・広告表現のレビュー、多様な属性・立場の方々とのダイアログの設計なども行っています。

・多様な属性・立場の方々の声を施策や商品開発にどう取り入れればよいか分からない
・現場での浸透に課題がある
・表現・コミュニケーション配慮が個人任せになってしまっている

そうした課題をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

このエントリーをはてなブックマークに追加