Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
表現からパッケージデザインまで リアルな声から学ぶDEIコミュニケーション

エコネットワークス(ENW)は「人権に配慮したDEIコミュニケーション実践ガイド」の公開を記念して、ウェビナーを開催。実践ガイドに収録した「インクルーシブ表現 8つのチェックポイント」を解説するとともに、LGBT-JAPAN 代表の田附亮さん、車椅子インフルエンサーの中嶋涼子さんをゲストに迎え、日々感じているリアルな声を伺いました。
お二人との対話を通じて見えてきたものは、多様な視点に触れ続けられる仕組みや組織横断でDEIコミュニケーションに取り組む体制づくりの重要性でした。
※本記事はENWが開催したウェビナー「その表現、大丈夫? ガイドを片手にリアルな声から学ぶDEIコミュニケーション」の内容を基に文章化し、一部加筆・修正を行ったものです。
▼目次
- インクルーシブ表現について考える アンケート性別欄の「その他」は適切?
- 「大人用おむつ=高齢者」ではない 固定観念から見落とすニーズ
- 車椅子ユーザーだからといってみんな同じではない 対話を通じて個を知る
- 推進のカギは相談できるネットワークと横断的な仕組みづくり
▼登壇者プロフィール
ゲスト:
LGBT-JAPAN 代表 田附亮さん
生物学的には女性で生まれるが、自身の事を男性として認識しているトランスジェンダー男性。「LGBTsが個性として当たり前に存在する社会へ」を掲げ、企業向け講演・研修プログラムの提供やLGBTsカスタマーサポートなどを手がける。これまでの経験と知見を企業の実践に落とし込む活動に注力しており、現在はLGBT×気候変動をテーマにした取り組みも推進。
車椅子インフルエンサー 中嶋涼子さん
9歳のとき突然歩けなくなり原因不明のまま下半身不随になり車椅子生活へ。「横断性脊髄章」と診断される。車椅子ユーザーの視点からメディアやSNSを通じて情報発信するインフルエンサーとして映画評論を中心に活動するかたわら、日本の映画館のバリアフリー化を社会に働きかける。自らの経験を起点に、誰もが参加できる社会づくりへの提言を続けている。
ファシリテーター:
エコネットワークス代表 野澤健さん
「個」が輝くサステナブルな社会を実現するため、企業の人権デュー・ディリジェンス支援や社内研修・啓発の企画・運営に携わる。
インクルーシブ表現について考える アンケート性別欄の「その他」は適切?
野澤:DEIや人権に対する意識や感度が高まり、企業などにおいても表現のあり方を工夫する動きがみられます。例えば、アンケートの性別欄に関していえば、以前は選択肢が「男性・女性」だけでしたが、そこに「その他」が追加されている例をよく見かけるようになりました。

LGBT-JAPAN 代表 田附亮さん
田附:企業側がそのアンケートを通じてどんな情報を集めたいかによって、どのような選択肢とすべきか検討できる余地はあると思います。トランスジェンダーの方も答えやすいようにといった配慮から「その他」という選択肢が追加されているケースが多いように思いますが、私自身は性自認が男なので「男」に丸をします。もし企業側がトランスジェンダーに関する情報を収集したいと思っているのであれば、「男性・女性・自由記載」の方がよいように思います。ときどき見かける「答えたくない」という表現は、それを選ぶこと自体が一種のカミングアウトにつながってしまうため、個人的にはあまり配慮のある表現に感じません。
中嶋:「答えたくない」だと、センシティブなニュアンスが強まる気がします。英語だと「Not Available」が多い印象ですが、排除されている感じがしてインクルーシブだとはいえません。クィアやクエスチョニングといった自身の性自認や性的指向が定まっていない・あえて決めていない人々の観点では、「分からない」「未定」「該当なし」のニュアンスを含む「Unknown」がよいように思います。
「大人用おむつ=高齢者」ではない 固定観念から見落とすニーズ
野澤:表現というと、言葉だけでなくビジュアルも関係してきますが、その描かれ方に偏りがあるように感じます。例えば、障害のある方はケアされる対象として描かれることが多い印象です。
中嶋:広告やパッケージデザインにおいて、購入者のターゲットを決めつけているように感じることがあります。例えば、大人用おむつに関していえば、おじいちゃん・おばあちゃんと介護している人が描かれることが多い。一方、私はおへそから下の感覚がなく排泄障害があるためおむつを使用しています。多様なユーザーを想定した取り組みとしては、2025年にアスクルがエイジレス・ジェンダーレスなパッケージの製品を発売しました。スタイリッシュでよいと感じています。私も自身の経験を活かして、そうした商品開発に携わっていきたいです。
田附:生理用ナプキンも同じです。ホルモン注射をしていないトランスジェンダー(女性から男性へ)の方は生理があります。でも、生理用ナプキンを使う大半が女性であるため、ピンクで花柄といったデザインの商品が多いように思います。
中嶋:「女性はピンク」という固定観念にもとらわれているように思います。その方の好みに応じて選べる、もっとシンプルで多様なデザインがあるとよいですね。
野澤:私もパートナーから生理用ナプキンを買ってきてほしいと頼まれることがあるので、その感覚よく分かります。よりシンプルでジェンダーレスなデザインの方が手に取るとき、抵抗感がないように思います。
田附:まずは大きな括りでターゲットを考えつつ、その中にある多様な関心や課題を細かく見ていくことで、新たなニーズを発見したり、共通するニーズも見えてくるはずです 。その上で、「この商品はどこまでを対象にするのか」を考えながら、利用しやすさや配慮の幅を調整していくアプローチがよいと思います。
車椅子ユーザーだからといってみんな同じではない 対話を通じて個を知る

車椅子インフルエンサー 中嶋涼子さん
中嶋:車椅子ユーザーと一口にいっても、状況や考え方、求めることは人それぞれです。例えば、米国ではどの映画館も車椅子ユーザーが自由に席を選べるつくりとなっていました。一方、日本では席数も場所も限られているケースが多い。数年前に、イオンシネマの対応についてこうした観点からSNSに投稿したところ炎上しました。でも、諦めずに映画館側と話し合いを重ねた結果、対象店舗以外も含めたスロープや車椅子席の設置に加え、バリアフリー対応していないシアターでしか上映されない作品をなくすため、より多くのシアターでの上映や上映回数を増やすことなどを提案してくださいました。一方で、別の車椅子ユーザーの方からは、この件について「そうやって声をあげるから障害者が外に出づらくなる」とコメントをいただきました。当たり前のことですが、「車椅子ユーザー=みんな同じ」ではなく、そこには多様な考え方やニーズがあります。だからこそ、実際に対話を重ねながら相手を知り、多様な視点を踏まえてコミュニケーションをとっていくことが大切です。
野澤:今回のセミナーを企画する際、お二人を「当事者」という言葉で紹介してよいのか悩みました。一括りにしないという点と同様に、誰もがみな何かの当事者であるはずで、「ゲストのお二人は当事者で、私たちは違う」と分けてしまうことに対する違和感があったからです。誰もが当事者になり得る、多様な側面を持っているということは前提として持っておきたい視点ですね。
推進のカギは相談できるネットワークと横断的な仕組みづくり

ファシリテーター:エコネットワークス代表 野澤健さん
野澤:1対1での会話であれば相手の反応を伺いながら話し、気に障るようなことを言ってしまったら、その場ですぐにフォローするなどできます。一方、企業の発信はそうもいかないので難しい部分もあります。
田附:DEIコミュニケーションに関する方針やチェックリストを策定すると同時に、商品開発やマーケティングにそうした観点を組み込むために、組織全体で人権やDEIに対する意識や感度を上げていくことが重要です。 意識醸成に向けては、講演や研修以外のアプローチも有効です。ある企業では夕方の時間帯にビュッフェを準備して従業員が参加する交流会を開催し、そこでLGBTsに関するセッションを実施しました。アンテナを張っていない人たちを別のフックで集め、心理的安全性の高い場をつくった上で意識づくりの場を提供する。DEIという概念が難しければ、まず全事業部や全チーム、そこにいる多様な人々が全員楽しく参加できる企画から考えてみるとよいと思います。
中嶋:ざっくばらんな対話を通じてこそ、トイレの事情や性のことなど、ちょっと言いづらいことも含め相手の日常や状況を知れます。私自身も障害をもっと身近に感じてもらい、自分ごととして考えてもらえるような場づくりをしていきたいと思っています。誰もが受け入れられ自分らしく楽しんで参加できる社会ーーEnjoy & Joinな組織・社会づくりを企業の皆さんと一緒にしていきたいです。
野澤:企業が取り組みを進める上では、気軽に相談できる社内外のネットワークを持っておくことが重要だと感じています。ERGs(従業員リソースグループ)や専門家、NGO、ご自身の経験をもとに発信している方々など、多様な視点を持つステークホルダーとつながり対話することで、実態に即した施策やコミュニケーションを実現できます。また企業の支援をする中で感じるのは、テーマごとに担当部署が違うなど縦割りになってしまいがちだということ。人権対応とDEI推進、さらには本日のテーマであるDEIコミュニケーションがそれぞれ別物として扱われる場合も多いです。統合的な視点を持ち、全社的な方針・ガイドラインの策定やチェックの体制など横断的な仕組みをつくっておくことが大事です。根本としてつながっている部分、共通課題をしっかりと認識し、連携して取り組んでいくことで、リスクを予防し、さらに顧客満足などの観点から新たな価値を生み出していけるのではないでしょうか。
ENWでは、「人権に配慮したDEIコミュニケーション実践ガイド」の提供に加え、企業向け研修やガイドライン策定支援、情報発信・広告表現のレビュー、多様な属性・立場の方々とのダイアログの設計などを行っています。
・表現配慮が個人任せになってしまっている
・部署ごとに判断基準が異なる
・多様な属性・立場の方々の声を施策や商品開発にどう取り入れればよいか分からない
そうした課題をお持ちの場合は、お気軽にご相談ください。
DEIコミュニケーションを「炎上回避」だけで終わらせず、組織の信頼性や新たな価値創出につなげていくために、実践に即した支援を行います。