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【開示研究100選】サステナビリティ情報開示のナラティブ研究

(Photo by Mohamed_hassan via pixabay)
企業のサステナビリティ情報開示において、「ナラティブ」の重要性を指摘する声を最近よく耳にします。ところで、ナラティブな開示とは具体的に何を指すのでしょう。
正直なところ、私自身この問いに明確に答えられないところがあり、改めてナラティブに対する考えを整理してみました。
ナラティブが注目される背景
サステナビリティの文脈でナラティブが重視される主な理由の一つは、この領域が社会の認識変化やステークホルダーの行動変容を促すことが欠かせない分野であるからです。加えて、情報開示を巡る近年の動向が背景にあります。
サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)に象徴されるESG・サステナビリティ情報の基準化が進み、開示の要求事項が明確に示されるようになってきたこと。また開示内容の読み解き・評価におけるAIの導入により、AIが読み取りやすい構造化された簡潔な開示が好ましいとされるようになってきたこと。そうした背景から、ともすると個別の項目をチェックボックス式に簡潔に開示することが優先され、結果として「伝わらない」開示となってしまう懸念があります。
そのため、単なるデータの開示にとどまらず、一貫性のある文脈と意味付けを持って物語を語るナラティブな開示が注目されています。
ナラティブな開示とは?
Forbes Japanの記事では、ナラティブは物事の過程を語るストーリーを超えるものである、として以下の説明がされています。
「ストーリー」は時系列に並んだ出来事の羅列として理解されがちです。しかし、「ナラティブ」は、その出来事や事実を意味付けし、受け手が自発的に考え行動したくなるような文脈を与える概念となります。 これによって、単なる情報提供を超え、相手が納得し共感を抱き、行動へと駆り立てる基礎を築くことができます。
ナラティブでは、読み手を主人公とし価値観を共有し、共感、そして行動へとつなげることが重視されます。
ナラティブな開示の具体例
サステナビリティ情報開示におけるナラティブな開示として、いくつかのパターンが挙げられます。
1.ページ構成におけるナラティブ
UnileverのSustainabilityページは、縦に長く、定量的なデータに基づく成果・進捗や、メッセージを補強するビジュアルを効果的に使用し、スクロールしながら読み進める構造となっています。重点領域であるプラスチックや自然のページでは、自社が大きな問題の一部を形成していることを直視した上で、どのような戦略の下で取り組みを推進しているかを語っています。また、業界全体に対してコレクティブ・アクションを呼びかけ、実際に起こしている行動について語り、課題解決に向けた仲間づくりへとつなげる開示となっています。
2.トップメッセージにおけるナラティブ
トップメッセージは、ナラティブ性のある内容となっているかで、読み手に与える印象が大きく変わります。Appleの2025 Environmental Progress Reportの担当役員メッセージでは、2030年に向けた環境目標に対する進捗と成果を、イノベーションや新しさといった一貫したメッセージを軸に全体を構成することで、個別の点ではなく目標達成へと続く道のりとして伝えています。
また、ファーストリテイリングの統合報告書のトップインタビューでは、「服の民主主義」やEコマース時代における「意味がある店」といったキーワードを意識的に活用することで、事業や経営のあり方に対する新しい見方を提示しています。加えて、一見小さく見える市場シェアの数字を成長機会と捉えてメッセージを発信するなど、読み手の関心を高める工夫が随所に散りばめられています。
3.財務・非財務の可視化におけるナラティブ
非財務が財務に及ぼす関係性や社会的インパクトの可視化といった、定量的な開示だけでは難しい領域においても、ナラティブは有効です。丸井グループが目指すインパクトの方針と取り組みをまとめたIMPACT BOOK 2025では、これまでの戦略における課題を正面から取り上げています。そこを出発点に、中期的に実現しようとしている新たな価値創出に向けた道のりを、定量的なデータと裏側にある思いや意図と組み合わせて伝えることで、読み手の共感につなげています。また、フォーマットもスライド形式となっていることで、現在進行形で進むプロセスであることを暗に感じさせます。
今回いくつかの事例を見る中で、「ナラティブ」に対する考えが整理されてきました。引き続き学びを深めるべく、国内外の企業の開示から考察する「ナラティブ研究」のセッションを近々開催します。詳細が固まり次第、メールニュースでご案内します。