「マスバランス方式」グリーンウォッシュのリスクは?

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先日、知人が「CO2をあまり出さない方法で作られたエコな缶らしいよ」とお菓子の缶を見せてくれました。詳しい情報を見ると、いわゆる「グリーンスチール」と呼ばれる低炭素を謳う鋼材で作られていました。しかし、そこには「マスバランス方式を採用」との記載が……ここでいうマスバランス方式とは、企業内で実施したCO2排出削減対策による削減量を、証書を活用することで一部の製品に集中的に割り当てるという仕組みです。知人は、自身が手にしている缶がまさに低炭素原料で作られたと思っていましたが、そこには誤認があったようです。最近よく目にする「マスバランス方式」に、グリーンウォッシュのリスクはないのでしょうか。

マスバランス方式とは? 企業における広がり

(Photo by saravut via AdobeStock)

「マスバランス方式」とは、どのようなものなのでしょうか。それは、特性の異なる原料が混合される場合に、ある特性を持つ原料の投入量に応じて、生産する製品の一部にその特性を割り当てる手法です(環境省)。これまでパーム油や紙、カカオ豆、燃料、プラスチックなどの分野で、持続可能な方法で生産された認証原料と従来の原料が混ざり合うようなケースにおいて活用されてきました。

例えば、化石原料6トン、バイオマス原料4トンでプラスチック製品を製造する場合、実際は「バイオマス原料40%の製品が10トン」製造されることになりますが、マスバランス方式では「バイオマス原料100%の製品を4トン、0%の製品を6トン」製造したとみなすことができるのです。このような手法は、企業が全面的に持続可能な原料に切り替えるのが難しい場合に、既存設備を活用しながら段階的にその使用量を増やしていくことができるため、企業ニーズが高いといえます。

さらに近年、低炭素を謳う鋼材「グリーンスチール」製品での採用が広がりつつあります。グリーンスチールについては「鉄鋼石を原材料とするプライマリー製鉄では、わずかな事例を除いては、リアルな低炭素鋼は市場に登場していない(自然エネルギー財団)」のが実情で、そのためほとんどが証書を活用したマスバランス方式を採用しています。証書によるバーチャルな仕組みに基づくため、前述のパーム油やプラスチックといった実際の原料をベースとしたマスバランス方式とはまた異なる形態です。対象となる特性が実態を伴うかバーチャルかに関わらず誤認が生じやすいリスクは共通点としてありながら、バーチャルの場合はさらに実態との乖離が懸念されるといえそうです。

マスバランス方式の「グリーンスチール」に反対声明  規制事例も

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これに対し2025年6月に、鉄鋼セクターの気候変動対策を促すNGO「スティールウォッチ」をはじめとする国内外30団体が、共同で反対声明を発表しました(詳しくはこちら)。マスバランス方式によって、実際には石炭を使用した鋼材であっても低排出または排出ゼロの「グリーンスチール」として扱われる仕組みを問題視し、グリーンウォッシュの危険性を指摘しています。同声明では、ISOやSBTi、世界鉄鋼業界などの機関に対し、マスバランス方式による「証書上での低排出鋼材」を各基準に組み込むことに反対を表明し、排出削減の実態が伴う鋼材と明確に区別するよう強く求めています。あわせて、マスバランス方式を推進する日本鉄鋼連盟や国内大手メーカーに対しても警鐘を鳴らしています。

マスバランス方式を採用した製品がグリーンウォッシュとみなされた事例も出ています。上記の反対声明では、韓国の鉄鋼最大手POSCO社が、マスバランス方式を採用した低炭素鋼材「グリニット(Greenate certified steel)」の広告について、規制当局より「石炭を使用して生産されている製品に関して排出削減を誇張している」とみなされ行政指導を受けた事例に触れています。

国内外のルール作りは途上 グリーンウォッシュのリスクを前提に

政府や国際的なイニシアティブ、認証機関などでは、こうしたリスクを踏まえた規制や仕組みの議論が行われています。環境省では2022年からマスバランス方式に関する課題を整理する研究会を継続的に行い、2024年に「プラスチック資源循環におけるマスバランス方式の活用に関する基本的な考え方」が示されました。ここでも、マスバランス方式は「実際の利用と比べて環境価値が一見して分かりにくいなどの特性がある」というリスクが指摘された上で、環境効果の適切な測定・管理、第三者認証の活用、適切な表示が必要と示されています。

GHGプロトコルやSBTiなどのイニシアティブでも、マスバランス方式の扱いや、マスバランス方式を採用した製品を購入した企業がその削減量を自社のScope3排出に充てられるかどうかなどの議論が途上にあります。対象となる削減プロジェクトの妥当性、算定方法、EPD(環境製品宣言)との整合性、適切な表示などが厳しく求められるためです(詳しくは、自然エネルギー財団「グリーンスチールの市場形成にむけて ~マスバランス方式活用の課題と条件」を参照)。日本の環境ラベル「SuMPO EPD」では、グリーンウォッシュのリスクに言及した上で、現時点ではマスバランス利用は不可との方針を示しています。

マスバランス方式はグリーンウォッシュのリスクが生じやすい手法である中、環境効果の適切な測定や表示は必須となります。また、企業が持続可能な生産への移行に向けた過渡期において、これに頼らないことこそが、その信頼性や価値につながっていくように思います。


エコネットワークス(ENW)では、組織を超えて様々なメンバーが集う学びと対話のプラットフォーム「Wave With(ウェーブ・ウィズ)」の一環で、様々なテーマに関して社内や企業間で考えるセッションを企画しています。グリーンウォッシュをテーマにしたセッションも多く行っていますので、ご関心がありましたらお気軽にご相談ください(詳細はこちら)。

支援実績:
社内対話・企業間対話セッションで、効果的な実践へ
メーカー「グリーンウォッシュ対策ハンドブック」制作

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