浄化槽メーカーのパイオニアに聞く:未来を見据えた水インフラのカタチ

2025 / 12 / 4 | カテゴリ: | 執筆者:岩村 千明 Chiaki Iwamura

“見えない”インフラともいわれる下水道。地下に埋め込まれ普段目にすることは少ないですが、家庭や事業所から排出される汚水をきれいにし、自然に返す上で重要な役割を担っています。一方、設置には大規模な工事が必要とされるため、山間部や過疎地などにおいて、現在でも未整備の地域が存在します。また昨今、日本国内では既存設備の老朽化や、人口減少・財政ひっ迫などによる運用面での難しさなど様々な課題があります。

こうした課題を解決する“分散型水処理システム”として改めて注目されているのが、浄化槽です。浄化槽メーカーのパイオニアとして日本国内では業界トップクラスのシェアを誇るフジクリーン株式会社に、未来を見据えた水インフラのあり方についてお聞きしました。

官民連携でつくる新たなインフラのカタチ

浄化槽は、各家庭から出る生活雑排水やし尿を微生物の働きで浄化し、きれいな水にしてから放流する設備です。従来、人口密度が高い都市部などでは、整備やメンテナンスにかかるコストなど効率性の観点から、汚水を一箇所に集めて処理する下水道の設置が進められてきました。しかし、日本国内では昨今、下水道や集落排水は老朽化と人口減少による不採算が課題として顕在化しており、全国の自治体で下水道から浄化槽(し尿だけでなく、生活雑排水もまとめて処理する浄化槽)への切り替えが加速しています。

「地域の特性によっては、各家庭・施設単位で処理でき、工期が短く建設コストも縮減できる分散型水処理が適切な場合もあります。例えば、フジクリーンの浄化槽を導入いただいた場合、従来工法と比較して工期を75%短縮、コストを49%削減することができます。元々、浄化槽は下水道が整備されるまでの間、水洗トイレを使用するための一時的な設備として生まれましたが、水処理技術が大きく進歩した結果、近年では下水道を補完する新しいインフラのカタチとして期待が高まっています」(総務部 次長 石田卓哉さん)

国土交通省・環境省などは、地域条件に応じて下水道と浄化槽を適材適所で使い分ける「効率的な汚水処理施設整備のための都道府県構想」を掲げており、官民連携による新たなインフラのあり方を模索しています。その一環として、汚水処理施設を利用できない状況にある10%強の人々(約780万人)が暮らす一部の地域で実施された「下水道クイックプロジェクト」にフジクリーンも参画。他の汚水処理施設と連携しながら、人口減少地域における下水道計画に新たな技術・手法を提供しました。

「現在では、下水処理場や集落排水施設を廃止して、代わりに個別分散浄化槽を導入しようという動きが各地で出始めています。水インフラの将来設計に向けて、私たちも自治体や上下水道コンサルタントの方々と連携しながら地域の人口や特性を踏まえたご提案を行っていきたいと思います」(営業部 営業企画課/営業課 伊藤紘介さん)

米国アラバマ州での排水処理施設の整備プロジェクト(フジクリーン株式会社ホームページより)

フジクリーンは、米国アラバマ州においても、州の公衆衛生局が立ち上げた排水処理施設の整備プロジェクトに参画。地域のニーズに応えるソリューションを模索するため、アラバマ州政府や現地のNGO、大学、公共機関、住宅建材メーカーのLIXILなどと共に、100世帯を対象とした様々な手法を試行しました。

「社会インフラの構築には、自治体や住民、技術的なソリューションを提供する企業など官民連携が不可欠です。初期段階から関係者が共に考え、協力して取り組むことで、地域の現状に即した適正技術の導入、質の高い持続可能なインフラを実現することができます」(海外事業部 営業課 課長 北井隼也さん)

米国では、約220万人がトイレやシャワーなど基本的な衛生設備を利用できないといわれており、同プロジェクトが同じ課題を抱える他地域でのモデルケースになることが期待されています。

持続可能なインフラ カギを握るのはメンテナンスのDX

メンテナンスを行う技術者を対象とした講習会の様子(フジクリーン株式会社ホームページより)

きれいな水を維持するとともに、分散型システムを持続可能なインフラとして使い続けていく上では、設備のメンテナンスが不可欠です。しかし、今後こうした領域における専門人材の不足が想定されており、その対応が喫緊の課題となっています。フジクリーンは、国内外でノウハウ提供や人材育成に取り組むほか、近年ではメンテナンスのデジタル化(DX)に向けた研究開発を進めています。

高度処理タイプの大型浄化槽向けには、既にIoTセンサーを活用した遠隔監視システムを実用化しており保守点検の回数が半減する、故障の早期発見など様々な効果が期待されます。

「持続可能な水インフラを構築・維持していく上では、メンテナンスのDXが大きなカギとなります。浄化槽内は湿度100%で電気系統にとって非常に難しい環境ではありますが、小型浄化槽も含めあらゆる製品に展開していけるよう引き続き開発に取り組んでいきます」(伊藤さん)

健全な水循環の回復に向けて

(フジクリーン株式会社ホームページより)

フジクリーンは、「生物にあふれた小川や水辺を回復すること」を理念に掲げ、人が使い汚してしまった水をその場できれいに再生することを目指しています。

「本来、水は自然がもつ自浄作用によって、きれいになるもの。私たちは、『微生物の持つ力を活用し、最小限のエネルギー消費で一定の基準まで水をきれいにして、自然界に返す』といった自然の水循環のサイクルを中枢に据えた事業展開をしています」(石田さん)

同社は、これまで日本に加え、米国、欧州、豪州といった国々を中心に事業を展開してきました。例えば、人口増大の影響から沿岸海域の汚染が深刻化していた米国ニューヨーク州では、州が定める基準を満たす窒素除去技術をもつ数少ないメーカーの一つとして政府主導のプロジェクトに参画。英国では、人体や生態系への影響が懸念されていた従来の装置の代替手段として鉄電解装置を組み込んだ浄化槽を提供し、環境負荷を低減しながら水質汚染を解決する仕組みづくりに貢献しました。

昨今では、低中所得国でも汚水処理に関する基準の厳格化が少しずつ進んできており、フィリピンで国際協力機構(JICA)が実施する下水インフラ整備に向けた実証実験に同社も参画しています。

誰もが安全な水とトイレを利用できるようになる――その先の世界を見据えて、健全な水循環の回復に向けたインフラづくりの一翼をフジクリーンの浄化槽は担っています。

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