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【開示研究100選】海外企業はどう工夫している? CSRD・ISSB対応下におけるマテリアリティ開示

(Photo by Mohamed_hassan via pixabay)
「materiality(マテリアリティ)」は、日本語でいうところの「重要課題」を意味します。しかし昨今、経営戦略との結びつきをはじめ、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)ではダブルマテリアリティ1 、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準ではシングルマテリアリティ2 が求められるなど、様々な考え方が併存し、概念自体が複雑化しています。
その一方で、「重要課題」とだけ説明しても、「何のために」「なぜ」重要なのかが伝わりづらくなっています。また、形式に沿い網羅的にマテリアリティを設定した結果、他社と似た内容になり、企業独自の視点が見えにくくなるケースも少なくありません。
今回は、EU・米国・オーストラリアの開示事例を基に、各社がどのように規制に対応しながらマテリアリティを捉え、開示を行っているのか見てみました。
1.ダブルマテリアリティ:社会・環境が企業財務に与える影響、企業活動が社会や環境にもたらす影響
2. シングルマテリアリティ:社会・環境が企業財務に与える影響
EU
EUではCSRD・ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の適用にあたり、ダブルマテリアリティの特定が求められます。多くの企業は、ESRSの定めるトピックに照らしマテリアリティを特定していますが、その中でもERM(リスク管理)との統合や、自社特有の課題とESRSトピックを結びつけるなどの工夫も見られます。
- <Orsted(デンマーク・再エネ)>
・CSRD・ESRSに準拠の上、ダブルマテリアリティ分析を実施し特定
・ESRSの定めるトピックに基づき、その中から自社のダブルマテリアリティを抽出
・分析においては、トピックごとに、もう一段細かいESRSのサブトピックに分類し、重要度のマトリクスを開示 - <Jerónimo Martinse(ポルトガル・食品小売)>
・CSRD・ESRSに準拠の上、ダブルマテリアリティ分析を実施し特定
・財務マテリアリティの閾値には、自社ERMプロセスのリスク評価レンジ(内部基準)を適用し、「収益・コストへの潜在的影響」と「発生確率」を用いて評価
・食品業界固有の「食品ロス」「価格の手頃さ」などの課題も、関連するESRSトピックと紐づける形で整理
米国
米国では、SEC(米国証券取引委員会)やU.S. GAAP(米国会計基準)に基づき、「投資家の意思決定に影響するかどうか」を判断基準とする「法的マテリアリティ」の考え方が根付いています。企業は、SECへの財務報告において、この厳格な定義に従う必要があります。
一方、サステナビリティにおけるマテリアリティでは、投資家以外のステークホルダーも含めた広義の視点が含まれている場合も多く、読み手の混乱を避けるため、SECが定める「法的マテリアリティ」とは異なる概念であることを明示する企業が多く見られます。
また、近年は欧州の動向を踏まえ、グローバル企業を中心に、GRIやCSRDに基づくダブルマテリアリティの導入も広がりつつあります。
- <Microsoft(テクノロジー)>
・GRI(Global Reporting Initiative)・SASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダードを参照し、マテリアリティを特定
・マテリアリティを「ステークホルダーが当社のESGを評価する際に最も重要だと考えるトピック」と位置づけ
・米国証券法上で使用される財務開示上の「マテリアリティ」とは異なる旨を明示
・「責任あるAI」「プライバシー・データセキュリティ」など、テクノロジー企業特有の課題も選定 - <Bristol Myers Squibb(製菓)>
・GRI・SASBスタンダード、CSRDを参照し、ダブルマテリアリティを特定
・マテリアリティの定義は、CSRDの定義と整合しており、財務開示上の「マテリアル(重要)」とは異なる旨を明記
・「価格・患者のアクセス」「公衆衛生と政策」など、製薬企業特有の課題も選定
オーストラリア
オーストラリアでは、ISSBの基準を基にした気候関連開示に関する国内基準が策定され、2025年1月より適用が開始されます。ISSB同様、シングルマテリアリティの特定が求められます。欧州などの状況も踏まえ、GRIスタンダードに基づいたダブルマテリアリティ開示を引き続き行う企業も多くありますが、その中でも気候関連の開示を中心に財務マテリアリティとの関連性を明確に示しています。
- <Westpac Banking Corporation(銀行)>
・GRIスタンダードに準拠して、ダブルマテリアリティを特定
・財務報告上の「マテリアリティ」とは異なる旨を明記
・一方で、インパクトマテリアリティが結果として企業の財務結果に影響を与える可能性があるという点で、財務マテリアリティとつながっている旨を明記(例:気候変動の影響が貸借対照表や損益計算書に与える影響について、毎年評価を実施)
・マテリアリティ評価には、GRIの求めるステークホルダーとの対話に加え、統合リスク管理システム(JUNO)を基に、サステナビリティリスクを評価
・「マネーロンダリング対策」「テロ資金対策」など、金融企業特有の課題も選定
日本でも今後、SSBJ基準により有価証券報告書でシングルマテリアリティの開示が求められますが、上記事例から、サステナビリティ情報の開示においては財務マテリアリティだけでなく、インパクトマテリアリティの観点も引き続き考慮する必要があることが伺えます。
規制に対応しつつ、自社が意図する重要性の考え方をステークホルダーに正しく理解してもらうためには、表面的な対応にとどまらず、マテリアリティの定義や目的、そして伝え方を工夫することが重要です。
エコネットワークスでは、重要課題・KPIの特定をはじめ、他国の開示事例調査、意思決定に向けた情報提供など、様々なサステナビリティ情報開示に関する支援を行っています。
主な支援実績:
・MHD「サステナブルデベロップメントKPI」構築支援
・メーカー「経営層向けESG同行レポート(日英)」企画・制作