「CCS」は有効な気候変動対策か? 国内外の現状と課題

2025 / 10 / 8 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

(©FoE Japan)

多くの企業が2050年のカーボンニュートラル実現を掲げる中、中期目標年に設定されることの多い2030年も、いよいよ5年後に迫っています。サプライチェーン全体でのCO₂排出量削減への取り組みが進められる一方、排出削減だけで目標達成できるのかという危惧も背景に、CO₂を回収し地中に貯める「CCS(炭素回収貯留)」にも注目が集まっています。CCSは、果たして有効な気候変動対策なのでしょうか?

世界の現状:CO₂排出対策への活用は?

CCSは、製油所や発電所、工場などから出るCO₂を分離・回収し、地中に貯める技術です。元々この技術は、油田にCO₂を圧入することで地下に残った原油を押し上げるための技術として、1970年代から石油増産を目的に研究開発が進められてきました。こうした背景から、2024年時点で稼働している50のCCS事業のうち、7割が石油増産に関連した事業です。

他方、残る3割の事業では回収されたCO₂が海底などに貯留されていますが、その量は1,000万トンに留まっています。石炭火力発電所でCO₂排出対策として行われている事業も4件のみとなっており*1、気候変動対策としての貢献はわずかと言えます。
*1「Global Status of CCS 2024」 (Global CCS Institute)

莫大なコストや環境影響 長期的に安全な貯留ができるか疑問

CO₂排出対策・気候変動対策として進んでいない理由は、どこにあるのでしょうか。国際環境NGO「FoE Japan」は、次のような課題を指摘しています(FoE Japanが発信する上記動画もご参照ください)。

  • ● 莫大なコスト
    …石炭火力からCO₂を回収・貯留するCCS事業を40年稼働した場合のライフサイクルコスト試算は、約4,100億円~1兆1,300億円*2。また、CCS付き火力の発電コストは、陸上風力や太陽光発電を大幅に上回っている*3
  • ● 気候変動対策を遅らせる/火力発電の延命につながる
    …現状では稼働中の施設におけるCO₂回収率は60-70%にとどまっているにもかかわらず*4、「CO₂を回収しているのだから排出してもいい」という言い訳を可能にするリスクがある。また、CO₂の分離・回収には莫大なエネルギーが必要で、CCS付き火力発電では必要な燃料が13~44%増加する可能性も指摘されている*5
  • ● 環境・地域への影響
    …CO₂分離回収の過程で生成されるアミン化合物による生態系や人の健康への影響*6、CO₂貯留に伴う地震リスク、輸送パイプラインからのCO₂漏えいリスクなどが指摘されている。
  • ● 安全な貯留に向け、長期モニタリングが実現できるか不透明
    …回収したCO₂を半永久的に地中にとどめるためには、数百年とも言われる長期モニタリングが必要だが、その手法や仕組み、法制度、財政などは明確になっていない。

さらに、2025年9月に科学誌ネイチャーで発表された研究結果では、そもそも地球に安全にCO₂を貯留できる最大容量が、これまで想定されていた数値の10分の1程度であり、地球温暖化の抑制効果はわずか0.7℃に過ぎないと指摘されています。

*2  「CCSバリューチェーンコスト」(地球環境産業技術研究機構)
*3 Institute for Energy Economics and Financial Analysis
*4   「CCS火力発電政策の隘路とリスク」(自然エネルギー財団)
*5  Center for International Environmental Law (CIEL)
*6「平成26年度環境配慮型CCS導入検討事業委託業務報告書」(環境省)

CCS事業化に動く日本 各地域での対話・精査が必須

一方、日本では、今まさにCCS推進に向けた事業が進みつつあります(上記動画もご参照ください)。日本政府は、2050年までに年間1.2億〜2.4億トンのCO₂を貯留する目標を掲げ、2030年までにCCSを事業化することを目指しています。2023年度からCCSのモデル事業を支援する「先進的CCS事業」が始まり、2024年には国会でCCS事業法が成立しました。

2024年度の先進的CCS事業では、国内で5つ・海外で4つの合計9事業が進められています。国内でCO₂貯留地の候補となっているのは、北海道・苫小牧、秋田県、新潟県、千葉県、九州西部沖・五島灘です。2026年度までにCO₂事業化するかどうか判断するため、各地で計画が進められています。各地域で住民説明会も少しずつ始まっているものの、計画が十分に認知されているとはいえず、今後各地域での丁寧な説明と対話、それを踏まえた計画そのものの精査が欠かせません。

また、先進的CCS事業では、日本で回収したCO₂を海外に貯留する事業が4つ進められており、他国にCO₂を投棄し、前述したような様々なリスクを押し付けるものだという批判も上がっています。

脱・化石燃料こそが最優先

CCSについて様々な課題が指摘され、気候変動対策としての有効性に疑問が投げかけられる中、CCSを本当に推進すべきなのか、立ち止まって検証し直す必要があります。化石燃料の使用を前提にした対症療法といえるCCSではなく、化石燃料からの脱却に力を注ぐことが最優先であることは明白です。企業においても、カーボンニュートラルの実現に向けて、真に有効な施策は何か、どこに資金や技術を配分・投入すべきなのかを、長期的な視点で判断することが求められています。


エコネットワークスでは、FoE Japan様のCCSに関する動画の企画・制作をご支援しました。FoE Japan様では、10月23日(木)20時~21時にCCSに関する下記ウェビナーを開催する予定です。ご関心のある方はぜひご参加ください。

宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)

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