【開示研究100選】反DEIに対する米国・欧州企業の開示状況

2025 / 9 / 5 | カテゴリー: | 執筆者:Shiho Funahara

(Photo by Mohamed_hassan via Pixabay)

以前ブログで、反DEI(Diversity, Equity&Inclusion)の動きとそれに対する対応を紹介しました。日本企業の約7割は多様性推進の方針を変更しない姿勢を示しています。今回は開示の観点から、米国と欧州企業のDEIへの対応を見てみました。


米国企業の対応

DEI施策の縮小や撤廃など揺り戻しの動きがある一方、約8割の米国企業が取締役会レベルでの監督は継続しています。開示に関しては、大きく3つのパターンが見受けられ、「DEI」や「equity」といった表現の使用は全体的に減少傾向にあります。

  • 1. DEIの取り組みおよび開示の継続                                                                          Costcoは「Inclusion」、Appleは「Inclusion & Diversity」といった従来の表現を見出しに用い、DEIの開示を継続。本文では、極一部にのみ「DEI」という表現を使用。また、両社は保守系シンクタンクからのDEI施策の撤回を求める株主提案に対し、Proxy Statement* で自社の考え方を示し反対を表明。反DEIへの対応を考える上でも示唆につながる内容となっている。

    * 米国において、上場会社などの株主総会に提出される議案内容を説明する委任状説明書

    Costco
    ・DEIは法的に適切であり、定期的なコンプライアンス見直しを実施
    ・DEIは財務成果だけでなく、企業文化や企業が影響を与える人々の幸福を高めるもの
    ・30万人以上の従業員とサプライヤーに支えられており、DEIはビジネスの成功や従業員の維持、能力強化に不可欠
    ・多様な顧客層の中で、従業員の多様性が顧客満足の向上や商品サービスのイノベーションを促進
    株主の98%が反対票を投じ、提案は否決

    Apple
    ・既に確立されたコンプライアンス体制があり、撤廃の必要なし
    ・機会均等雇用主として、法令に基づく差別のない採用・昇進・研修を実施
    ・米国および他国の差別禁止法に準拠し、方針・目標を定期的に見直している
    株主の97%が反対票を投じ、提案は否決

  • 2. DEIの取り組みを一部縮小または表現の変更                                                                       Pepsico
    ・公式な声明は出されていないが、取り組み縮小が報じられている。2023年版レポートの見出しや本文で使用されていた「DEI」が、直近の開示では「Inclusion」へ
  • 3. DEIの取り組みの撤廃および開示の削除                                                                       Meta
    ・公式な声明は出されていないが、多様性に配慮した採用活動の廃止が報じられており、同社幹部は従業員宛ての書簡で「法律や政策の状況が変化している」と説明。2023年版以前のレポートでは「diversity」や「inclusion」などの表現で記載があったが、2024レポートでは多様性に関する記載は見られない                                                           

欧州企業の対応

トランプ米政権により、米国政府との契約を持つ欧州企業に対し、DEIプログラムの廃止を求める文書が送付されました。これに対し、フランスやベルギーなど複数の政府は「米国の干渉は容認できない」と強く反発しています。全面的に撤廃するなどの大きな動きはあまり見られないものの、一部企業の取り組みの見直しが報じられています。今回は、報道のあった企業を中心に、グローバルでの開示と米国内での開示状況を見てみました。

  • <ドイツ・Volkswagen>
    ・今後、米国子会社をグローバルな多様性指標の範囲から除外する方針が報じられているが、公式な声明やレポートでの記載は見受けられない
    グローバルサイトでは、主にリスクマネジメント・コンプライアンスの一つにD&Iを位置付け開示している。表現については、従来から使用されていた「diverse, inclusive, and non-discriminatory culture」などを使用
    米国子会社のサイトでは、サステナビリティページに「D&I」を設けているものの、取り組み実績については2017年時点までの情報にとどまり、採用などその他のページでも多様性に関する訴求は最小限
  • <スイス・Nestlé>
    ・米国でDEI表現を控える動きが報じられ、消費者団体によるボイコット運動が発生。公式な声明は出されていない
    グローバル米国サイトともに、採用ページにDEIの取り組みページを設置
    2023年版レポートと比べ2024版は構成が変わりコンパクトとなっていることもあり、「DEI」の記載はやや抑えられている印象

DEIの目的や役割を明確に

米国ではDEIを巡り、トランプ政権の「公民権法* を守るために排除すべき」とする反対派と、「その理念の実現に不可欠」とする支持派が対立しており、企業は訴訟や株主提案、ボイコット、財務・評判リスクなど難しい判断に迫られています。

また、政治的な反発を緩和するために「DEI」という表現を変更する企業も増えていますが、形式的に言い換えればよいというわけではありません。

取り組みを継続、または縮小・撤廃するにせよ、何もメッセージを発しないことは、顧客や従業員の不安感の増大やモチベーション低下につながる可能性があります。そのため、自社のスタンスを明確に示すことが重要です。例えば、Appleは法令遵守とリスク管理の観点からDEIを位置付けている他、Costcoは企業文化や社会的価値としてその意義を明確に示しています。

直接影響する企業もそうでない企業も、自社にとってのDEIの目的や役割を改めて見直すことが重要です。

* 米国では、公民権法により、従業員15人以上の民間企業などに対し、人種・肌の色・宗教・性別・国籍などに基づく差別が禁止されている。また、同法に基づき、雇用機会均等委員会(EEOC)は、従業員100人以上の企業や、従業員50人以上の連邦政府請負業者に対し、人種・性別・職種などのデータを記載した「EEO-1レポート」の提出を義務付けている


【お知らせ:9/19(金)人権おしゃべり会 「反DEIの動きから、企業のあり方を考える」
お茶会のように人権テーマをおしゃべりする「SCHR会(ス茶会)×ENW」で本テーマを取り上げます。ご参加お待ちしています。


 

(船原志保/アナリスト)

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