児童労働撲滅に向けて:有楽製菓の取り組みに学ぶ

2025 / 9 / 25 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor

今年6月、2025年を目標年度としていた児童労働撤廃の達成は難しい状況であることが発表されました。世界の児童労働者数は減少傾向にあるものの、その数はいまだ約1億3,800万人に上ります。そのうち約6割は農林水産業に集中しており、チョコレートの原料であるカカオ豆の生産地でも児童労働が長年の課題となっています。複雑に絡み合う構造的な問題を解決するためには主要メーカーやカカオ豆の流通に関わる商社、NGO/NPOなど多様なステークホルダーが、それぞれの立場からできることを模索し、協働することが不可欠だといわれています。

そんな中、日本国内のチョコレートメーカーとして、いち早く本課題に取り組み大手企業やNGOなどと連携しながら活動を推進してきたのが、「ブラックサンダー」でおなじみの有楽製菓株式会社です。2019年より自社で使用するチョコレート原料を「児童労働撤廃に取り組むカカオ」に切り替える「スマイルカカオプロジェクト」を推進しており、カカオ原料を購入する際にプレミアム*を上乗せする仕組みを導入。支払ったプレミアムは、児童労働が発生していないかを監視する取り組みや、生産者への還元、生産性の向上支援、環境への配慮を目的とした活動などに活用されています。

国内の中小・中堅企業ではサステナビリティを社会貢献の一環と位置付けるケースが多い中、ブランド戦略として本課題に取り組む有楽製菓のアプローチについてお聞きしました。

*一般的な市場価格に上乗せして生産者に支払われる追加の金額のこと


話者:
有楽製菓株式会社 経営品質部 牧宏郎さん


児童労働監視改善システムをサプライヤー選定の基準に

Q: 児童労働を撲滅するためには、サプライチェーン全体を可視化し、児童労働の有無を特定・検証するトレーサビリティの徹底が求められています。一方、中小・中堅企業としてはそこまでの取り組みには現実的な難しさもあると想像します。

欧州のチョコレート業界では、児童労働が発生していない農園を特定し、そこで収穫されたカカオ豆を他のものと分離して管理・流通させる仕組み(分離方式)が構築されており、こうした仕組みを通じて調達されたカカオ豆を原料とし生産するチョコレートが主流になりつつあります。一方、日本国内では、分離方式で原料を調達するのが容易ではなく、調達コストもかかってしまうため、少なくとも現時点では現実的な方法だとはいえません。そのため当社では、購⼊した認証農園とその数量は保証されるマスバランス方式(認証農園からの認証カカオが流通過程で他の⾮認証カカオと混合される認証モデル)を導入しています。

Q: 現在の仕組みでは、児童労働がないことをどう保証しているのでしょうか。

原料を購入する取引先を選定する際、児童労働監視改善システム(CLMRS:Child Labor Monitoring and Remediation Systems)が導入されているかを基準としています。昨年参加した国際協力機構(JICA)が主催するガーナでのスタディツアーにおいては、農園では子どもが働く姿を実際に見ることはありませんでした。しかし、大規模な市場を視察した際には子どもが大きな荷物を運ぶといった作業をしている姿も見受けられ、児童労働が常態化していることを肌身をもって感じました。プログラムには、ガーナ政府も参加しており、児童労働が国の重大な社会課題の一つとして認識されていることが感じられました。

児童労働が身近にあることを前提に、CLMRSを通じて児童労働の有無を特定し、監視、是正および防止する取り組みが継続的に行われているかを重視しています。

ガーナで撮影したカカオ豆の様子(Photo provided by 有楽製菓)

カカオポッドを割り、取りだされたカカオ豆(Photo provided by 有楽製菓)

Q:実際に児童労働の是正・防止に向けて環境が改善されているのかなど、プロジェクトの効果はどのように測定しているのでしょうか。

現地で直接的な支援を行っている連携先の企業やNGOを通じて、効果の把握に努めています。例えば、バリーカレボー社によって設立された「ココアホライズン」では、プレミアムによる全体成果を各社の支払額に応じて分配した数値で報告してくれるため、それを基に自社がもたらしたインパクトを把握し、今後のあり方について検討しています。

また、事業へのポジティブな影響の一例として、調達の安定化が挙げられます。昨今、チョコレート業界はカカオ豆の不作によるサプライチェーンの混乱に直面しています。一方、支援を行っている農家の方々については、「収穫量が比較的安定している」という声が聞かれます。こうした取り組みを通じて、農家さんと原料メーカーとの間に信頼関係が築かれており、その結果、調達の安定化につながっているそうです。

主力製品を起点に、連携で躍進

Q: 昨年、有楽製菓チョコレート商品で使用されるカカオ原料がすべて児童労働に配慮された原料に切り替わったと発表がありました。目標を1年前倒しで達成できた理由は何だったのでしょうか。

一つは、主力商品から取り組んだことです。最初は「売り上げにあまり影響がない商品から小さく始めよう」という意見もありました。しかし、最終的には業界や社会に大きなインパクトをもたらしたいとの思いから、人気商品であり売上の大半を占める「ブラックサンダー」から着手することにしたのです。ブラックサンダーは2022年9月をもって、スマイルカカオ率100%を達成したため、そこからは自ずとスピード感を持って他商品への展開を進めることができました。

また、原料メーカーやNGOとの連携も活動の推進力になっています。活動を始めた当初、主要取引先の国内メーカー何社かに「児童労働に頼らない原料を使用したい」と相談しましたが、最初は断られました。そこで、原料の一部を切り替えることを決意。翌年には以前取引のあった原料メーカーさんも児童労働撤廃に本腰を入れるようになり、現在では課題解決に向けたパートナーとして連携しています。その他、ガーナで児童労働撲滅に取り組む国際協力NGOのACE(エース)さんは活動を進めるにあたって必要な知識やネットワークなど様々な観点から相談に乗ってくれています。

ワクワクを軸に、ブランド力 × 協働で波を広げる

Q:全商品のスマイルカカオへの切り替えを達成した今、次の目標として考えていることや課題があればお聞かせください。

社会全体に変化の波を広げていくことが、次の目標です。その一つとして、今年5月にオープンした見学施設「ブラックサンダー ワク⚡ザクファクトリー 」を起点に、児童労働について知ってもらい、考えてもらう活動を行っていきたいと考えています。見学施設の壁一面を利用して児童労働やスマイルカカオに関する展示を行っているため、今後は自治体と連携して、小中学校の課外授業として同施設を訪問してもらうなどの取り組みを検討しています。

「ブラックサンダー ワク⚡ザクファクトリー 」、スマイルカカオプロジェクトに関する展示(Photo by Chiaki Iwamura)

また、異なる顧客層に広げるために、他社とのコラボ企画でもスマイルカカオの取り組みを打ち出していきたいです。

Q: 手に取りやすい価格でブランド力もあるブラックサンダーだからこそできることがありそうですね。

有楽製菓は、創業当時から「夢のある安くておいしいお菓子を創造する企業を目指します」という企業理念を掲げており、「日本一ワクワクする菓子屋」を目指しています。食べる人だけでなく、作る人を含むみんなを笑顔にしたいという思いからスマイルカカオプロジェクトに取り組んでいるのですが、なかには「児童労働といった重い現実からは目をそむけたい」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、こうした課題は社会の1割が取り組んでいるだけでは決して解決できません。「一緒にやっていきたい」という気持ちでより多くの皆さまが商品を手に取ってくださるような企画を展開していく必要があります。当社の持ち味であるワクワク感を組み込みながら、協働を通じてこの取り組みをより多くの企業・個人に広げていくことで、児童労働撲滅の一翼を担っていければと思います。


後編では、「ブラックサンダー ワク⚡ザクファクトリー 」への訪問レポートをお伝えするとともに、取り組みをより多くのステークホルダーに広げていくためのアプローチを考察します。ぜひご覧ください。

取材・文:野澤健・岩村千明

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