Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
【開示研究100選】TNFDレポートの発行パターン

(Photo by Mohamed_hassan via Pixabay)
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言が2023年9月に公表されて以降、2026年度までに提言に即した開示を宣言するアダプターズリストには全世界で500社以上が登録しています。そのうち日本企業は最も多く、2025年7月1日時点で最多の170社となっています。
それでは実際にどのように開示がされているかというと、TNFDに特化した単独レポートを発行することもあれば、気候(TCFDレポート)と統合したレポートとして発行する、その他の開示媒体の中で開示を行うなど、様々なパターンがあります。
私たちも昨年TNFDレポートの制作をご支援する機会がありましたが、TNFD提言の開示要求に応えつつ、既存の開示媒体と棲み分けながら、想定する読者層に分かりやすく伝えるという点で工夫をしながら取り組みました。
今回はTNFDに関する開示をどのように行なっているか、TNFDアダプターズリストのデータベースに登録している数社の事例を取り上げます。
Iberdrola(スペイン、エネルギー)
- ・法定開示書類である非財務情報報告書Consolidated Non-Financial Information Statement (NFIS) and the Sustainability Reporting 2024において開示
- ・報告書の構成はESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に沿った章立て・開示内容となっており、自然資本関連の情報はESRS 2 「全般的開示事項」やESRS E4「生物多様性および生態系」、その他の環境に関わる箇所で開示
- ・巻末にTNFD対照表を掲載し、該当箇所を一覧化。TNFDコアグローバル指標についての開示はなし
- ・インパクト・機会・リスク(IRO)や、生物多様性に重要な影響を及ぼす拠点のリストなどを、文字情報を中心に開示。自然資本に特化したリスクや機会の分析内容についての詳細な情報はなし
VALE(ブラジル、資源)
- ・自然資本に特化した2023 TNFD Reportを公表。全16ページで、イラストや図表を多用し視覚的な読みやすさを追求
- ・段階的な取り組みの進捗を報告することを目的に、LEAPアプローチ*に基づき1年目のパイロットとして実施したブラジル国内事業における分析結果について報告
- ・国際的に推奨される手法に則って分析をした結果、既存の戦略や活動との整合性が確認されたことを報告。検証結果のみを報告し、具体的な取り組み事例は掲載せずコンパクトな構成
- ・2026年までに事業報告書における統合的な報告を目指すことを明言
* Locate(発見)、Evaluate(評価)、Assess(評価)、Prepare(準備)の4つの段階から構成される、企業が自然資本に関するリスクと機会を特定、評価、管理する評価手法
NEC(日本、総合電機)
- ・今回で2年目となるNEC TNFDレポート第2版を発行。TNFDの開示枠組みに即した構成で、全34ページ
- ・特に自然資本への依存と影響、リスクと機会について、直接操業およびサプライチェーンの上流・下流に分けて網羅的な評価を行い、結果について開示
- ・将来的なその他開示媒体への統合を見据えつつ、現時点ではノウハウの蓄積を目的に独立したレポートとして発行し、その知見を他社へと展開している
- ・TNFDの開示フレームワークに即した構成に続き、最後に「デジタル技術の貢献可能性」として機会の側面からネイチャーポジティブに貢献する可能性のある技術の事例集も掲載
生物多様性、生態系および生態系サービス(BEES)は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の次なるテーマの一つであり、フレームワーク策定にあたってはTNFDと連携することが決まっています。
TNFD提言の要求事項に応えられるよう備えつつ、実際の開示にあたっては、目的や想定読者を明確にし、全体の開示戦略の中での位置付けを検討した上で開示に取り組んでいくことが重要となります。
こちらの関連記事もぜひご覧ください:
・【国内外の企業事例から学ぶ】ESRS詳細開示への対応と分かりやすさ両立の工夫
・GRIとTNFDの相互運用性マップを活用して報告の負担軽減を