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子どもの権利とマーケティング ~ファミチキの事例から考える

(Photo by WavebreakMediaMicro via AdobeStock)
昨年12月、ファミリーマートが発祥の地である埼玉県狭山市の市制施行70周年を記念して、市内すべての公立小中学校の学校給食に、看板商品「ファミチキ」を無償提供したというニュースがありました。子どもたちが喜ぶ姿がメディアで取り上げられる一方、学校教育の場が企業マーケティングに利用されている側面は否めず、そこにリスクや課題はないのかとモヤモヤを感じました。
モヤモヤの正体は? リスクと課題を考える
この取り組みのどこにモヤモヤがあるのか、エコネットワークス(ENW)のパートナー*や人権領域での連携組織「Social Connection for Human Rights(SCHR)」の皆さんと共に意見交換したところ、子どもの権利に負の影響を及ぼすリスクや企業リスクの観点から次のような論点が浮かび上がってきました。
* ENWの業務で関わりのある方。雇用契約者、業務委託契約者の両方を含む
- ●地域貢献・社会貢献といえるか
例えば地域の貧困世帯に対して食品を無償提供する場合は、地域貢献・社会貢献としての目的が明確だが、公立小中全体に無償提供する取り組みはどうか。企業マーケティングではないと提示できる要素はどこにあるか。 - ●教育的価値があるか
学校は、すべての活動が教育を目的としていることを踏まえると、企業が教育現場で取り組みを行う際は、仮にマーケティングが付随したとしても教育的価値が必要ではないか(例:工場見学)。 - ●「食育」の観点
近年、給食は「食育」として教育活動の一つにも位置付けられている。また、オーガニック給食運動なども全国で広がっている。環境、人権、アニマルウェルフェアなどサステナビリティの観点から給食のあり方を考えていく必要があり、企業として提供するならばこうした商品が理想ではないか。 - ●健康への配慮
子どもの栄養・健康に配慮することを基本とする給食に、いわゆるジャンクフードを提供することの是非。 - ●「子どもの権利」の尊重
子どもの権利条約18条では、子どもが適切な情報を得る権利を掲げているが、学校におけるマーケティングを伴う活動は、子どもが適切に情報を判断できる方法か。
こうしたリスク・課題に関する意見が出た一方で、今回の取り組みは子どもに楽しさ・わくわくをもたらすという側面は評価でき、楽しさを皆で共有できる体験機会だったのではという意見も出ました。
子どもを対象とした取り組みを展開する前に、チェックすべき基準とは
脆弱なライツホルダーである子どもを対象とした、あるいは子どもと接点がある企業活動を展開する際には、上記のように様々な観点を精査する必要がありますが、大前提として「子どもの権利の尊重」が欠かせません。子どもの権利条約を土台にして策定された、次の原則やガイドラインを参照しながら、子どもの権利について何を守らねばならないかをまず把握することが必須です。
●子どもの権利とビジネス原則(以下、ビジネス原則):
国連グローバル・コンパクト、セーブ・ザ・チルドレン、国連児童基金(ユニセフ)が共同で2012年に発表したビジネスにおける国際基準
●子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン(以下、ガイドライン):
上記のビジネス原則を踏まえて、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、日本ユニセフ協会が共同で発表した日本国内向けのガイドライン
「子どもの権利を尊重し、推進するマーケティング」とは?
特に日本では、子どもを対象としたマーケティングが多く展開されており、子どもの権利を侵害するリスクが生じやすい状況にあります。ビジネス原則6では、「子どもの権利を尊重し、推進するようなマーケティングや広告活動」に求められることとして、次のような点を示しています。
●差別を助長しない
●親や子どもが情報に基づいた決定を行うことができる情報開示(製品ラベルなど)
●子どもがよりコントロールされやすいこと、非現実的な、あるいは性的特徴を際立たせた体の画像および固定観念(ステレオタイプ)を用いることによる影響があるという点への考慮
上記の3点目について、ガイドラインでは次のように解説しており、子どもがよりコントロールされやすく、理解力や判断力が不足していることに配慮した上で、子どもたちが情報に基づいて適切に判断できる広告・マーケティングが求められています。
商品やサービスの購入やその消費において、概して子どもは知識や経験が少なく、情報を理解する力や判断する力が不足している。そのため広告などの情報を信じやすく、広告やマーケティングの影響を受けやすいとされている
冒頭のファミチキの事例においては、教育活動とマーケティングの線引き、学校・教員が紹介することにより商品の内容や品質に対して過大な期待や誤解を生じさせない配慮が必要といえるでしょう(詳しくは、ガイドラインの「広告表現、広告手法に関する配慮事項」参照)。
世界におけるマーケティング規制の動き これから企業がすべきことは
世界では、スウェーデンやノルウェーのように12 歳未満の子どもに対する広告が法律で禁止される国々があるほか、企業においても2022年にネスレ社が16歳未満の子どもに対する広告宣伝・販促などのマーケティングを自主禁止するマーケティング方針を策定するなど、子どもの権利尊重に向けた対応が進んでいます。日本においても、企業は前述の原則やガイドラインを踏まえた上で、子どもと接点がある自社の各取り組みについて、どのようなリスクが生じ得るのか/生じているかをまず分析することが第一歩となるでしょう。
(宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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