Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
【国内外の企業事例から学ぶ】ESRS詳細開示への対応と分かりやすさ両立の工夫

(Photo by Mohamed_hassan via pixabay)
前回のブログで、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準を踏まえた、サステナビリティレポートの国内外の開示事例を紹介しました。現在、日本では特にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準への対応が、欧州ではESRS(欧州サステナビリティ報告基準)への対応が急務となっています。こうした様々な規制に加え、ESG評価機関やステークホルダーの要請への対応が求められる一方 、独自性・ストーリー性や分かりやすさ・読みやすさといった伝わる開示を目指すことも重要です。複雑化する開示要請に企業がどのように対応しているのか。「Sustainability Frontline」では、これから海外・国内の企業を様々な角度で取り上げていきます。
今回は欧州企業の開示事例に焦点を当てました。
ESRSに基づき詳細な情報を開示していくと、レポートのページ数は膨大になります。一方で、様々なステークホルダーが手に取りやすく、理解しやすいレポートにするためには、分かりやすく簡潔であることも必要です。欧州企業がこれらの相反する課題に対し、どのような開示を行っているのかに着目しました。
Hydro(ノルウェー・アルミニウム製造)
- ・レポーティングはIntegrated Annual Report 2024の「Sustainability Statement」に集約
- ・ESRSの他、ノルウェーの各種国内法、豪州や英国の現代奴隷法、GRIなどの規制・基準への対応を冒頭の「General Statement」で説明し、具体的に該当する章や内容索引にリンク
- ・マテリアルイシューで構成される各章は、「重要課題とする理由→私たちのアプローチ(戦略、具体的な取り組み事例)」というシンプルな構造
- ・データ関連については、各章の最後に、ESRSの開示要件に合わせた「E1 Notes on Climate Change(E1 気候変動に関する補足情報)」などを設け、報告にあたっての考え方とセットで分かりやすく集約
Allianz(ドイツ・金融サービス)
- ・レポーティングはAnnual Report 2024を主な報告媒体とし、別途Highlightを発行
- ・Annual Reportの「Sustainability Statement」では、マテリアルイシューで構成される各章の冒頭に、ダブルマテリアリティ・アセスメントの結果を表形式で開示。事業ごとの評価と、該当するインパクト・リスク・機会のサマリーを掲載
- ・青線で囲った数行程度のサマリーを各章(気候変動に関しては中項目ごと)の冒頭に設置し、目的や目標、取り組みの概要について分かりやすい用語で簡潔に記載
- ・別途発行されているHighlightは、一般顧客なども読みやすい文字量やページのボリュームで、主要な取り組みや2024年度実績を、デザイン性のある見せ方で開示
L’Oréal(フランス・化粧品メーカー)
- ・レポーティングはUniversal Registration Document 2024を主な報告媒体とし、別途The Essentialls Annual Reportを発行
- ・Universal Registration Documentの「Sustainability Report」では、マテリアルイシューに基づく各章を「背景→一覧表(リスク・機会、関連方針、アクションプラン)→方針や実行中のアクションプランの詳細→実績・使用されるリソース」という一連のストーリー性が掴みやすい構成に
- ・別途発行されているThe Essentials Annual Reportは、計19ページとコンパクトにまとめられており、サステナビリティに関する情報については、2024年実績とステークホルダーへのvalueを2ページで簡潔に記載
- ・その他、The Essential Annual Reportの内容をまとめた動画The key figures and highlights of 2024を別途開示
今回上記3社の開示状況を見てみて、各社ESRSで要求される詳細な情報開示を担保しながらも、読みやすさを確保するため工夫していることが伺えました。様々な規制に個別にただ対処していくだけでは、情報量はどんどん増え、読みにくいレポートになってしまいがちです。報告書内での見やすさの追求だけでなく、開示媒体の在り方を含めた開示戦略の設計が重要です。エコネットワークスでは、引き続き様々な観点から国内外の事例をウォッチしていきます。
(船原志保/アナリスト)
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