Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
「汚染」から見る社会と企業の認識ギャップ

(Photo by Maxim Tolchinskiy via Unsplash)
企業においてCSRやサステナビリティを推進する部門の重要な役割の一つが、社会課題に対するステークホルダーの期待の把握です。特に社内外の認識ギャップを先取りして把握し、経営や事業戦略にフィードバックすることで、将来の事業機会やリスク低減につなげていくことが期待されます。
将来のトレンドを把握する上で参考になるソースの一つが、毎年1月のダボス会議にあわせて世界経済フォーラムが発表するGlobal Risks Reportです。世界中の専門家への調査結果を踏まえ33のグローバルリスクについての動向がまとめられており、直近・短期(2年)・長期(10年)の深刻度の観点の一覧からは、中長期の時間軸でのトレンドをつかむことができます。
2025年版では、10年先を見据えた長期リスクのトップ4が異常気象や生物多様性の喪失といった環境課題となりました。加えて社内外の認識ギャップの点で注目したいのが、短期で6位、長期で10位に入った「汚染」です。
多様化・複雑化する汚染のリスク
汚染には大きく分けて、大気・土壌・水質の汚染があり、様々な汚染物質への懸念が高まっています。
- 大気汚染:残留期間は短いが大気や温室効果への影響が大きいSuper pollutantsと呼ばれる短寿命気候汚染物質。PM2.5を構成するブラックカーボンや、農業などから発生するメタンなど
- 水質汚染:特に懸念されているのが、有機フッ素化合物(PFAS)、マイクロプラスチック・ナノプラスチック、そして薬剤や虫除け、日焼け止めなどに含まれる抗菌薬による汚染
- 土壌汚染:農業用肥料から流出する窒素や、不十分な廃棄物管理に起因する化学物質による汚染
汚染によって、生態系や健康・人体への影響が生じます。ただしそうした影響は、データが不十分であるなど科学的に未解明の場合も多く、今後の研究が待たれる部分があります。また、多くの場合、社会的に脆弱な状況に置かれている人々が健康などにより深刻な影響を受けます。そのため汚染に対しては、予防原則に則った対応が求められると同時に、人権との交差性の観点からの対応も重要となります。
汚染への注目と対策
汚染の深刻度に対する認識は、企業とそれ以外のステークホルダーグループによって差があります。政府、アカデミア、市民社会では長期リスクのトップ10に挙がっているのに対し、民間セクターではランク外となっています。また有効と考えられる対策については、政府や自治体レベルの規制(63%)、国際条約や協定(54%)、研究開発(53%)が上位にきています。
企業にとってのリスクや機会の観点から考えると、科学的知見の蓄積によって、企業が想定する以上のスピードで国内および国際レベルで汚染に対する規制議論が進む可能性も想定されます。また汚染物質を除去するフィルターや回収システム、モニタリング技術などへのニーズは確実に高まるといえます。
将来のトレンドや社内外の認識ギャップを把握する上では、実際にステークホルダーと対話していくことも欠かせません。こうした情報収集や対話の役割を、特にサステナビリティを推進する部門が率先して担い、最終的には全社のあらゆる部門や場面に組み込んでいくことで、サステナビリティの経営への統合が進んでいきます。
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