Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
AI需要対策に原子力 「カーボンフリー電力」はどこへ向かう?

(Photo by ake1150 via AdobeStock)
昨年9月に「米マイクロソフト社が、スリーマイル島原子力発電所から全発電量を20年間調達する」というニュースが世界を駆け巡りました。脱炭素を目指す巨大企業群が、原子力エネルギーの活用に次々と乗り出しています。「カーボンフリー」の名のもとに推進すべきは何なのか、今問われています。
背景にデータセンター需要の高まり
GAFAMと称される巨大テック企業群は、脱炭素に向け、再エネ拡充などの取り組みを進めてきました。一方、これらの企業が抱えるデータセンターは常に大容量の電力を必要とし、さらにAI拡大などで電力需要が急増しています。国際エネルギー機関(IEA)の2024年の報告書によると、データセンターやAI、仮想通貨などによる電力消費量は2026年までに2倍になると予測されています。脱炭素と電力需要への対応という2つの課題を目の前に、再エネに加えて、原子力エネルギーを活用する動きが広がっているのです。2024年には、アマゾンが原発から電力供給されるデータセンターの購入を発表、グーグルとアマゾンが小型モジュール式原子炉(SMR)からの電力調達などを発表しています。
「カーボンフリー電力」目標を掲げる動きの中で
こうした企業の戦略において、原子力エネルギーはどう位置付けられているのでしょうか。例えば、冒頭のマイクロソフトは「2030年までにカーボン・ネガティブ」「2025年までに再エネ100%」の目標を2020年に掲げました。その後、再エネ拡充を進めながら、2023年に原子力エネルギーに関する方針を公表しました。現在では「2030年までにカーボンフリーエネルギー100%」を目標に追加し、原子力エネルギーはその中に位置付けられています(詳細はこちら)。グーグルも、同様の目標のもとに位置付けています。
「カーボンフリー電力」目標を掲げる動きは、産業界に広がりつつあります。再エネ100%を目指す国際的イニシアティブ「RE100」を運営するClimate Groupは、カーボンフリー電力を推進するプロジェクト「24/7 Carbon-Free Coalition」を2024年に立ち上げました。グーグルやボーダフォン、アストラゼネカなど6社が参画し、メンバー拡大を予定しています。同プロジェクトでも、原子力エネルギーは選択肢の一つとして取り組まれていくものと見られます。
SBTiやEUタクソノミーは、原子力をどう位置付け?
サステナビリティを推進する国際的なイニシアティブは、どのようなスタンスでしょうか。Science Based Targets initiative(SBTi)は「様々な技術に対して中立であり、原子力エネルギーに関する特定のスタンスや制限はない」という見解を示しています。また、「環境に配慮した持続可能な経済活動」を分類する制度「EUタクソノミー」では、2022年に原子力を含めることが決まったものの、その条件として「高レベル放射性廃棄物の最終処分施設を2050年までに稼働させる具体的な計画があること」を求めています。しかし現在、最終処分施設の建設計画が進んでいるのはフィンランドとスウェーデン、フランスにとどまっており、放射性廃棄物の処分という大きな課題がある限り、原子力は持続可能な経済活動になりえないことを示しています。
「カーボンフリー」という利点の影にリスク
ここで立ち止まって考えたいのは、「カーボンフリーという利点を優先するあまり、それ以外のリスクから目を逸らしていないか」という点です。福島第一原発の事故は、安全性に100%は存在しないこと、廃炉コストなども踏まえると原子力エネルギーは安価ではないことを示しました。原子力エネルギーはコスト競争で再エネに劣り、グローバルな発電量も再エネの3分の1に落ちているという報告や、近年注目される小型モジュール式原子炉のリスクと課題への指摘もあります。また、放射性廃棄物の管理・処分の観点から、持続可能性にも疑問が生じます。
長期的でも狭い視点は、持続可能性を妨げる

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サステナビリティに取り組むためには、長期的な視点が欠かせません。しかし、長期的であっても「脱炭素」という狭い視点だけにとらわれれば、持続可能ではなくなる危険があります。様々なリスクを踏まえた上で、安全性・経済性・持続可能性の観点から何を選ぶべきなのか。「カーボンフリー」という冠のもとで、原子力を優先して再エネへの取り組みがおろそかになることは避けなければいけません。今、北海道で再エネ100%のデータセンターの建設が相次いでいる動きは、選ぶべき未来を示しているように思います。
(宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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