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AIの普及が格差を拡大? 技術革新が労働者にもたらす影響とは

(Photo by Michal Jarmoluk via Pixabay)
デジタル化や自動化など、この20年で急速に発展してきたテクノロジー。それによって、私たちの暮らしや働く環境も大きく変わってきています。企業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)やAIの活用が、これからますます進んでいく中で雇用環境はどう変化していくのでしょうか。国際労働機関(ILO)が発表した「世界雇用と社会見通し:2024年9月更新版 」では、技術の進展が労働者にもたらす影響について考察しています。
労働者は新技術の恩恵を十分に受けていない?
近年、AIの発展やIoTの導入などにより製造現場における自動化が進んでいます。従来、手作業で行われていた工程が自動化されると、そこで発生していた人件費が削減され、さらに作業効率の向上により生産性が高まるため、原材料費の高騰など外的要因を除き単純に考えると、企業の増益につながることになります。
企業の利益が増えることは、働き手にとって喜ばしいことです。しかし、同報告書は、自動化を基盤とした技術革新は、生産性を向上させる一方で労働分配率の低下に寄与していると指摘。つまり、技術の進展によって得られた恩恵を労働者が十分に受けていないというのです。
労働分配率 過去20年で1.6%低下
労働分配率は、「企業が生み出した付加価値(粗利益)のうちどれくらいを人件費に充てているか」を示す指標であり、経済全体の観点からは「国内総生産(GDP)に占める労働所得の割合」を指します。2004年の53.9%から直近ではコロナ禍の影響で2019年以降減少し続けており、2022年には52.3%まで低下。2023年および2024年も同水準にとどまると予測されています。
同報告書は、こうした労働分配率の低下が労働市場における格差拡大につながっているとし、企業によるAI技術の活用が進めば、この傾向がさらに強まる可能性があると警鐘を鳴らします。
技術革新をより良い組織・社会のあり方につなげるために
報告書では、技術革新のプロセスとして、国や企業による適切な政策や施策を通じて潜在的な負の影響を軽減することの重要性が強調されています。
デジタル技術などの活用により業務の効率化が進み、人件費が下がるのは当然のことです。ただ、それによって得られた利益を従業員に適切に分配することは、企業の社会的責務とも言え、企業は労働者の権利や労働条件の見直しなどを並行して進めていく必要があります。こうした施策は、より良い人材の確保や従業員のモチベーション向上などを通じて、企業にとってもさらなる付加価値の向上につながるはずです。従業員もまた、働く環境の変化が自身の報酬に適切に反映されているか意識を高く持ち、違和感を抱いたら声を上げていくことが重要だと言えます。
技術革新をより良い組織や社会のあり方につなげていくために、組織と従業員が一体となって、生み出された付加価値をさらに高める良い循環を模索していく必要があるのではないでしょうか。
(岩村千明 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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