3S貯金箱に見る「社会へお金を投じる」環境づくり

2024 / 11 / 5 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara
貯金箱イメージ

(Photo by Pormezz via AdobeStock)

我が子のお小遣いを始めたころ、米国の金融教育に関する記事で「3S貯金箱」というコンセプトを目にしました。「Spend(使う)」「Save(貯める)」「Share(誰かのために使う)」の3つのSごとに、自分のお金を分けて貯金する考え方です。様々な社会課題に向け資金が求められる今、こうした「誰かのため、社会のためにお金を投じる」意識の啓発と行動しやすい仕組みが必要とされています。

日本の個人寄付 増加傾向だが低い水準

社会のためにお金を投じる手法の代表例は、寄付です。日本の現状を見ると、2020年の個人寄付総額は1兆2,126億円で、うち55%はふるさと納税が占めるものの、それを除いても増加傾向にあります。しかし、寄付が盛んな米国や英国と比べると、GDPに占める割合は米国が1.55%、英国は0.47%、日本は0.23%と低い水準にあります(出所:「寄付白書2021」/日本ファンドレイジング協会)。英国に本部がある慈善団体「Charities Aid Foundation」が発表している「World Giving Index 2022」(「世界人助け指数」)によると、「寄付」「ボランティア活動」「見知らぬ人への手助け」という項目によるアンケート調査の結果、日本は118位と世界ワースト2位となっています。

個人寄付総額の推移グラフ

©日本ファンドレイジング協会

 

日米英の個人寄付総額および対GDP比率の表

日米英の個人寄付総額および対GDP比率 ©日本ファンドレイジング協会

社会にお金を投じやすい仕組みを

米国など寄付が盛んな国では、宗教を背景に献金や寄付が文化として根付いているだけでなく、寄付金控除に関して対象団体数の多さや上限適用額の高さ、繰越控除など制度が充実しており、寄付を促す仕組みが重要な役割を果たしています。また、近年は、クラウドファンディングや寄付付き製品など、個人が気軽に社会にお金を投じやすい新たな仕組みもカギを握っています。ただし、日本のふるさと納税制度における過剰な返礼品競争に見られるように、直接的な個別リターンが目的となるような仕組みには、共助で社会を支えるという本来の寄付や税金の趣旨がゆがめられてしまう課題があり、適切な仕組みとなっているかどうか注意も必要です。

「相互扶助」と「シチズンシップ」の意識もカギ

相互扶助のイメージ

(Illustration by Quarta via AdobeStock)

仕組みや制度とともに、「相互扶助」や「シチズンシップ」の意識の浸透も重要です。日本では「困ったときはお互いさま」といった価値観がある一方で、「他人さまに迷惑をかけない」といった意識や自己責任論が強い傾向にあります。また、シチズンシップについても、日本財団の第20回「18歳意識調査」では「自分で国や社会を変えられると思う」人は日本で18.3%にとどまり、調査対象9ヵ国のうち最下位でした。こうしたことも、日本の個人寄付総額が低い水準にある背景の一つと考えられます。

今後に向け、学校や地域など様々な場で、シチズンシップや相互扶助を意識していけるような啓発・教育が重要になってくるでしょう。冒頭の3S貯金箱に話を戻すと、我が家でもお年玉の一部を寄付する企画を子どもたちとやってみたことがあります。環境や紛争、貧困、医療などいくつかの分野でNPO団体を調べ、どこにいくら寄付するかを子どもたち自身で考えました。結果として、そのとき100円だけ寄付してそれきりの子どももいれば、それ以降毎年お年玉から1,000円を寄付し続けている子どももいます。金額や継続性はさておき、早いうちからこうした経験をすることで、自分のお金を社会に投じるという選択肢があることや、自分が社会の変化を起こす一助になるというシチズンシップを学ぶ機会となります。

気候変動や生物多様性といった緊急の課題解決に向けて、今後資金の重要性はますます高まっていきます。ESG投資が大きな影響力を持つ中、私たち個人も自らの行動やお金を通じて、社会をより良い方向に変えていくことができます。個人を含めた様々なレベルで、社会課題解決に資金を投じやすい環境づくりに向け、意識啓発や仕組みづくりなどがさらに求められていくのではないでしょうか。

宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)

こちらの関連記事も、ぜひご覧ください:

「教育する対象」から「共創パートナー」へ 次世代と共に社会を変える
サステナブル消費を価値のある消費へ 大切なのは「共感」
コモンとしての森  これからの森林保護のかたち
「助け合える関係性」で、レジリエントな組織や社会へ

このエントリーをはてなブックマークに追加