Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
中小サプライヤーとの連携でScope3開示を CDPの活用も

(Photo by Gerd Altmann via Pixabay)
企業や自治体の環境情報開示に向けたプラットフォームを運営する国際NGOであるCDPが今年、中小企業向けの質問書の導入を発表しました。Scope3のCO2排出量に関する開示義務化に向けた流れが加速する中、サプライヤーである中小企業の削減に向けた取り組みや情報開示を支援する動きが広がっています。
国内外で広がるScope3開示義務化への動き
ここ数年、Scope3を含むサプライチェーン排出量の開示を求める動きが拡大しています。2023年6月には、国際サステナビリティ基準審議会 (ISSB)がサステナビリティ開示基準の一般的要求事項(IFRS S1)と併せて、気候変動に関する基準(IFRS S2)を設定しました。そこでは、適用初年度は免除されるものの、Scope3の開示が要請されています。
今後、各国で同基準の適用に向けた動きが進展すると見込まれており、日本においてはサステナビリティ基準委員会(SSBI)と金融庁が議論を進めています。金融庁の情報によると、2025年にはIFRSと同様の基準を確定し、2026年より任意で適用開始、2027年より時価総額3兆円以上の企業に対して義務化が始まるとされています。
大手企業に対してScope3の開示を義務化する動きが広がる中、そのサプライヤーである中小企業に対する脱炭素化への要請も加速していくとみられます。
中小企業の取り組み状況と課題
日本商工会議所・東京商工会議所が2024年6月に実施した「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」(対象地域:全国47都道府県、回答企業数:2,139社)によると、25.7%の企業が「取引先から何らかの要請を受けている」と回答。要請内容は「温室効果ガス排出量の把握・測定」が13.8%と最も多く、次いで「温室効果ガス排出量の具体的な削減目標設定・進捗報告」が6.4%となっています。
脱炭素に関する取り組みについては、71.4%が「実施している」と回答しているものの、その多くを占めるのが「省エネ型設備への更新・新規導入」や「運用改善による省エネの推進」などです。他方、開示義務化に伴い対応が求められる「エネルギーの使用量・温室効果ガス排出量の把握・測定」を実施している企業は25%程度(現時点で取引先から要請を受けている企業の割合とほぼ同じ)にとどまっています。
その理由としては、人材やノウハウ不足が半数以上を占めており、次いで33.1%の企業が「排出量の具体的な算定方法が分からない」と回答しています。
CDP 中小企業向け質問書、サプライヤー開示支援の一助に
世界の企業の約9割を中小企業が占める中、これらの企業によるCO2排出量の算定や情報開示を促すことは、カーボンニュートラルの実現に向けて重要なカギを握っています。
こうした必要性から、例えばCDPは2024年4月に中小企業向け質問書を公開しました。ISSBの気候変動に関する基準など主要な国際フレームワークや基準に整合しながらも、中小企業の負荷の軽減に向けて、組織の規模に合ったよりシンプルな質問書となっており、2024版年は特に温室効果ガス排出量など気候変動対策に関する情報に焦点を当てた構成となっています。Scope3の開示や削減に向けて、大手企業はCDPのようなツールを上手く活用しながら、サプライヤーの情報整理や知識の習得を促進していくことが求められています。
2030年までにサプライチェーン全体で10億トンのCO2排出量(2015年比)の削減を目指すプロジェクトを推進してきたウォルマートは、2024年2月にその目標を6年前倒しで達成したと発表しました。同社では、サプライヤーに対して目標設定に向けた支援を行うほか、工場のエネルギー効率化に向けたツールや再生可能エネルギーの調達に関するプログラムを提供するなど、具体的なアクションの実行を後押ししてきました。この事例に見られるように、情報開示にとどまらないさらに踏み込んだ支援によって、サプライヤーと連携しながらCO2削減に向けた取り組みを加速させていくことが求められています。
(岩村千明 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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