Sustainability Frontline
サプライチェーン下流に潜む人権リスクとは?
販売後の商品が、顧客やエンドユーザーにより、いつどこでどのように使用されるのか、企業がすべてを把握することは難しく限度があります。それらは代理店や中古市場などを介し、巡り巡って、ときに地震や災害などの復興支援の場で活用される場合もあれば、反対に、戦争など軍事侵攻に用いられるということも起こっています。
下流に潜む人権侵害のリスクとは?
国際調査団体「Who Profits Research Center」では、イスラエルの軍事占領に関して商業的に関与している可能性のある企業がリストアップされたデータベースを公開しています。数百社に及ぶ世界中の企業がリストアップされており、その中には、いくつかの日本企業も含まれています。
例えば、リストに掲載されている企業の一つである日立建機は、東洋経済が行った調査に対し、イスラエルで撮影された写真に写っているショベルカーが自社の商品であることを認めています。一方で同社は、イスラエル政府や軍に対して直接的に商品提供はしておらず、イスラエルでの代理店を通じた販売においても「国際的な平和と安全保障を脅かす行為に機器を使用しない」ことを誓約している旨を強調した上で、同商品については「他国の中古市場で流通している可能性がある」と回答しています。
昨今、販売後の商品を巡っては、代理店や中古市場などを介し、企業が意図しない場所や用途で利用され、販売元の企業が人権侵害に加担しているとして、批判を受けるなどの事態に発展するケースが増えています。
企業に求められる対応とは?
下流における商品やサービスに関連する人権リスクへの対応は、2011年に承認された「ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGPs)」で要件の一つとして組み込まれているほか、2023年7月に最終規則が採択された欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)でも「消費者およびエンドユーザーに関連する深刻な人権問題や事件の報告」の開示が求められています。
商品の使用における取り組みについては、ほとんどの企業の場合、既に販売法令遵守や輸出管理の一環として、何らかの取り組みを実施していることが想定されますが、さらに人権の視点を組み込んだ取り組みが必要です。
「グローバル人権原則とアプローチ」の中で顧客やエンドユーザーの商品利用をすべて把握しコントロールすることは難しいとした上で、潜在的な懸念を評価し、商品の不正使用を防止および軽減するための「高信頼性基準」を設けていると述べています。さらに、懸念事項が発覚した場合においては、そのサードパーティー(自社商品の販売などを行う間接的な事業者)との取引を制限または中止する旨を示しています。
グループ会社やバリューチェーンの特性、操業地域などを考慮したビジネス・ユニットおよびグループ会社別の人権デュー・ディリジェンス(人権DD)を実施しており、リスク評価の結果、お客さま・エンドユーザーの高リスク地域(紛争)における人権問題が特定されています。
下流の商品使用にも目を向けた取り組みが必要
昨今、多くの企業が人権DDを実施していますが、サプライチェーン上流の一次・二次取引先に加え、下流における消費者やエンドユーザーにも目を向けていくことが必要です。Intelや日立製作所の事例のように、下流を踏まえた人権DDの実施、事前の対応策の検討など可能な範囲で予防策を講じておくことが求められます。そして、不作為に起こりうる顕在・潜在的なリスクを把握するためには、関連NGOが公表するデータに自社の掲載がないか継続的にウォッチしていくこと、またはNGOなどとの対話の機会を定期的に設けていくことも重要です。
(船原志保/アナリスト)
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