増築を重ねるサステナビリティ戦略 パーパスを原点に整理を

2024 / 4 / 26 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara
積み上げる様子

(Photo by chaylek via AdobeStock)

気候変動、資源循環、生物多様性、人権、人的資本‥‥‥、企業のサステナビリティに関する戦略に並ぶ数々のテーマ。増築工事を重ねてきたサステナビリティ戦略は、ときとして情報が膨大かつ複雑で、戦略の焦点や他社との差異が見えづらいといった課題に直面しています。今、改めて見つめ直すタイミングに来ているのかもしれません。

増え続けるサステナビリティの柱 見えづらくなる焦点や独自性

企業が対応すべきサステナビリティ領域は、最近注目される生物多様性をはじめ、年々広がりを見せています。また、サプライチェーン全体での取り組みが必須となり、対象範囲も広がっています。背景には、気候危機など課題の緊急性が高まっていることに加えて、情報開示に対する要求の高まりがあります。TCFDやTNFDといった枠組みやCSRDなどの法規制、評価機関の要請などに合わせて、企業はあらゆる側面で網羅的に取り組みや開示を行うことが求められているのです。

こうした動きの中で、マテリアリティが増え、追加された領域に関するステートメントや指針が増えていく。戦略を伝えるためのコンセプトやビジュアル、ロードマップが増えていく。網羅的にしようとすればするほど、社内外への発信は複雑さを増し、戦略の焦点や独自性が見えづらくなる‥‥‥。これらの課題の他にも、新たな領域と従来から取り組んできた領域との関係性を整理しきれないままに、ひとまず追加開示されているケースもあります。例えば、最近注目される人的資本と、これまでサステナビリティの文脈で開示してきた多様性の領域について、方針や戦略の関係は上下なのか並列なのか、どのような媒体や構成で開示するかなど、相互の関係性や位置づけをどう整理するか、悩みの声も耳にします。

自社ならではの使命やインパクトはどこに パーパスに立ち返る

サステナビリティ課題が山積する現状や、多くの企業でサステナビリティと経営の統合が目指されている状況を考えれば、企業が網羅的に取り組みや情報開示を行うのは、必然であり当然の流れです。また、開示要求の波が次々と押し寄せる中で、整理する間もなく開示せざるを得ないという現実はあります。

ただ、今後も対応すべき領域や範囲が広く深くなり、どの企業も当然のように取り組みを進める時代だからこそ、「一度立ち止まってみる」ことが必要なのではないでしょうか。改めて自社のパーパスに立ち返り、自社ならではの果たせる使命や役割、インパクトはどこにあるのかを改めて明確に捉えることは、企業価値の向上だけでなく、サステナビリティに関する全社レベルでの浸透や、従業員エンゲージメントを高める観点からも重要です。その上で、サステナビリティに関する戦略における重点や各領域の関係性を見つめ直し、増え過ぎたり網羅的になり過ぎたりしている要素を整理していくことが今求められているように思います。

宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)

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