Sustainability Frontline
自然共生サイトから考える、企業の自然保全活動のあり方
2023年度は180ヵ所以上が自然共生サイトに認定
2023年度後期の「自然共生サイト」の認定結果が発表されました。今回63ヵ所が認定されたことで、前期の122ヵ所とあわせて、合計面積は約8.5万haとなりました。国土の約0.22%、東京23区を超える大きさです。
「自然共生サイト」とは、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域のことです。昨年度から環境省が認定を始め、今後、保護地域との重複を除いたエリアがOECM(Other Effective area-based Conservation Measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)として国際データベースに登録される予定です。
背景にあるのは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようという「30by30目標」です。2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組で、生物多様性の損失を止め、プラスに転じるネイチャー・ポジティブの実現に向けて合意された国際目標の1つであり、その達成にOECMが大きな貢献を果たすことが期待されています。
高まる企業の関心、活動のあり方を見直す契機に
自然共生サイト認定に対する企業の関心も高いという声を耳にします。里山保全や工場でのビオトープといった活動にすでに取り組んでいる企業は、認定取得を通じて、生物多様性保全や国際目標への貢献といった既存の活動の価値を見える化することができます。
加えて、自然共生サイト認定の取得は、企業が既存の活動のあり方を見直す良い機会ともなります。先日も、森づくり活動のあり方を整理したいという企業と専門家との対話をご支援しましたが、特に5~10年といった継続的な関わりが期待される森づくりは、それゆえに活動がマンネリ化してしまったり、本来の目的が曖昧になってしまったりという課題が出てきます。そうした中で、改めてその活動を通じてどのような自然環境を実現したいのか、目指す姿を見直すことも大切です。
私たちの暮らしのあり方とセットで考える自然共生
目指したい自然環境の姿、また自然共生ということを考えるにあたっては、自然を私たちの暮らしにどのように取り込むか、という点もセットで考えていくことが大切です。私たちの暮らしが自然と離れすぎてしまったこと、自然を消費の対象としてしか捉えなくなってしまっていることが、環境や第1次産業に関わる問題の大きな背景としてある中で、自然の側だけの話ではなく、私たちの暮らしの側の話として捉えることなしには、本当の意味での自然との共生は成り立たないと考えるからです。
企業財務に影響する重要な自然資本に関する情報開示枠組みであるTNFD最終提言が2023年に公表されました。それにより機会とリスク、また定量的な財務インパクトに対する注目が高まり、企業の取り組みが加速することが期待されます。そうした中で、ネイチャー・ポジティブへとつながる構造的な変化を起こしていくためには、やはり私たちの暮らしや社会のあり方の視点が欠かせないはずです。
私自身は、子どもが森のようちえんに通い始めたことで、その思いが特に強くなりました。森の入口まで日々送り迎えをするようになり、森がぐっと暮らしの中に入り込み、森との関わりが自分ごと化され、森や生き物の捉え方が変わりました。私の場合は特殊な形ではありますが、企業だからこそ、製品・サービスや活動を通じて、より多くの人々の自然観に影響を与える機会を作り出していくことができるはずです。
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