Sustainability Frontline
サプライチェーンで活用進むブロックチェーン 人権リスク可視化も
エコネットワークスが運営するコミュニティ、TSA では生活者・消費者の立場から企業などに声を届けていく「エシカルボイスプロジェクト」を実施しています。同プロジェクトに参加する同僚の一人が先日、ある製品に使用される天然ゴムについて販売元に問い合わせたところ「製造元の原材料の調達方法につきましては弊社では分かりかねます」との答えが返ってきました。
サプライチェーンの複雑性が高まり、下流に位置する企業が原材料の上流まで追うことが難しい状況にある中、近年注目を集めているのがブロックチェーンです。
トレーサビリティ向上に寄与するブロックチェーン技術
ブロックチェーンとは、ネットワーク上にある一つひとつの取引履歴(ブロック)を一本の鎖のようにつなげ記録・処理する分散型データーベース(台帳)のことです。透明性とトレーサビリティを実現する技術として、昨今では金融分野にとどまらず責任ある調達への応用が期待されています。
その主な目的は、サプライチェーン上のすべての企業における支払いや勘定などのあらゆる取引を単一の共有台帳に記述し、管理することです。一度記録された情報を削除したり内容を変更したりできないため、各段階において情報の透明性が確保されます。また、川上から川下まで分断されている情報の共有化が実現され、原材料の生産から調達、製造、出荷、販売までモノの流れを追跡できるようになります。
人権リスクの可視化や是正にも一役
人権対応に対する社会的な要請が高まる中、人権リスクの可視化や是正などにブロックチェーン技術を活用する動きも見られます。
例えば、ロッテは三井物産などと協働し、ガーナのカカオ農園で児童労働リスクを可視化する実証実験 を行っています。カカオ豆を集積する専用倉庫を現地に確保し、農家コミュニティIDをもとにトレーサビリティ情報を取得。ブロックチェーン上に記録し、それを現地のパートナーと共同運営する児童労働監視改善システムによって得た情報と紐づけることで、生産過程における児童労働リスクの可視化を図っています。
また、伊藤忠商事 は天然ゴム業界初の取り組みとして調達からタイヤの生産・販売においてブロックチェーン技術を導入。原産地情報付きの天然ゴムから生産されたタイヤの売上の一部から原料の生産者へ対価を支払う取り組みを開始しました。インフラなどの関係から金銭の支払いが難しい小規模農家に対しては、農具・肥料といった物品の配布などを行っています。さらに、同社はコーヒー豆の調達においても、ブロックチェーンを活用したプラットフォームFarmer Connect と連携。サプライチェーンを可視化するとともに、消費者が生産者への寄付や生活支援プログラムに参加できる仕組みを構築しています。
サプライチェーンの新しいカタチをつくる
サプライチェーンの透明性とトレーサビリティの実現に向けて、今後導入の加速が予想されるブロックチェーン技術。しかし、最新の技術を導入したからといってすべてが解決されるわけではありません。
同技術を通じて、単に製品の履歴を追うだけでなく、伊藤忠商事のように生産者に還元される仕組みや消費者が生産者を応援できる仕組みを構築すること。また、ブロックチェーンで追跡した情報を「生産者の顔」が見える形で提供することなども重要です。こうした観点を踏まえた上で技術を実装していくことで、企業は消費者の意識に働きかけ、生産者と消費者をつなぐ新しいサプライチェーンのカタチを構築していけるのではないでしょうか。
(岩村千明 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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