Sustainability Frontline
ジェンダー平等へ インフォーマル経済で働く女性のエンパワーメント
SDGsの目標の一つであるジェンダー平等。達成年限とされる2030年まであと7年しか残っておらず、男女間賃金格差の解消や女性管理職比率の向上などの施策に積極的に取り組む企業が増えています。一方、世界経済フォーラムが今年6月に公表した世界各国の男女間格差に関する年次報告書では、全世界でジェンダー平等を実現するにはあと131年かかるとの見通しが示されました。
女性や女児の権利を阻む社会的または経済的な障壁。その解消に向けて取り組みを加速させていくためには、どうしたら良いのでしょうか。インフォーマル経済における女性のエンパワーメントが、一つのカギになりそうです。
低中所得国で高い、女性のインフォーマル経済就業率
国連女性機関(UN Women)と国連経済社会局による最新の報告書は、持続可能な開発目標全体のジェンダー平等の達成状況を追跡調査し、11の主要な障壁(The 11 biggest hurdles for women’s equality by 2030)を指摘。その一つとして「貧困と経済的機会の欠如」を挙げ、2030年までに3億4,000万人以上の女性と女児が極度の貧困状態に陥ると予測しています。
女性の貧困を助長する一因となっているのが、インフォーマル経済の構造です。インフォーマル経済とは、「法または実務上、公式の取り決めの対象となっていないか、公式の取り決めが十分に適用されていない労働者および経済単位の行うあらゆる経済活動(不正な活動は含まない)」のことを指します(参照:ILOの新基準を用いてインフォーマル経済の罠から抜け出す方法)。具体的には、小規模・零細農家や漁業者、家事代行サービス業者などが挙げられます。
インフォーマル経済で働く人々は、雇用形態や収入が不安定であり、労働法や社会保障の適用も不十分であるため、貧困から抜け出せない負の連鎖に陥ってしまいがちだと言われています。国際労働機関(ILO)の推計によると、世界の全労働者の約6割にあたる20億人程度がインフォーマル経済就業者であり、うち女性は約7億4,000万人強。全体で見ると男性が占める割合が高い一方、一般的に脆弱な環境にあるとされる低所得国および中所得国のほとんどにおいて女性のインフォーマル経済就業率の方が高くなっています。
女性農業者のエンパワーメント 生産技術の向上や販路開拓を支援
UNと国連食糧農業機関(FAO)は、インフォーマル経済における女性のエンパワーメント向上を目指し、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国において農業に従事する女性を対象とした技術プログラムを提供しています。これらの国々では、商業的農業はいまだ男性中心の業界であり、女性は畑などで農作物の生産に携わっていることが多いとされます。さらに、小規模農家の女性は法または実務上、公式の取り決めの対象となっていない、または公式の取り決めが十分に適用されていない状況で働いていることも少なくありません。
女性農業者がこうした状況から抜け出すためには、生産技術の向上や財務力、販路の開拓が必要なのです。同プログラムでは、気候変動に対してレジリエンスの高い農業技術や輪作(土壌環境維持のため、異なる野菜をローテーションして栽培する手法)など責任あるランドケアを伝授。その他、フォーマル経済への参加を実現するため、法令遵守に関するガイダンスや安全基準を満たした農作物を小売店や販売代理店に販売するための支援を実施しています。
女性の経済的エンパワーメントを高めながら、気候変動へのレジリエンスと農業生産性を向上させていく同プログラムは、ジェンダー格差と食料不安の2つの同時解決につながるソリューションでもあります。持続可能な社会の実現に向けた新しい技術や仕組みへの移行は、インフォーマル経済で働く女性を育成し、エンパワーする好機にもなり得ると言えるでしょう。
サプライチェーンの上流側 インパクト拡大のカギに
ジェンダー平等を実現する上で、賃金格差の是正や女性管理職比率の向上は重要な取り組みです。しかし、世界におけるジェンダー平等の実現に100年以上もかかると言われる中、サプライチェーン全体に目を向け、とりわけ上流側の課題とされるインフォーマル経済に着目した取り組みを進めていくことも、また重要なのではないでしょうか。
社内にとどまらないこうした活動は、より大きなインパクトを社会にもたらし、ジェンダー平等の進展を加速させるカギになるはずです。
(岩村千明 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
こちらの関連記事も、ぜひご覧ください:
・ジェンダー平等の実現を超えて社会変革を gender-transformative
・COP28、より多くの女性リーダーの参加に期待