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グリーンウォッシュに向き合う心構え
2023年10月、気候ネットワークと日本環境法律家連盟の2団体が、日本広告審査機構(JARO)に対し、広告差し止めの申し立てを行いました。対象となったのは、「CO2が出ない火をつくる」と主張するJERAの石炭火力発電におけるアンモニア混焼の広告です。
欧米を中心にグリーンウォッシュの規制が進む中、日本においても同様の動きを加速させる事例となるか、JAROの判断が注目されます。
欧米で進むグリーンウォッシュ規制
環境対応に取り組んでいると見せかけるグリーンウォッシュ。規制の動きには大きく分けて、投資家にもたらす不利益を防止するためESG投資ファンドの適格性を厳格化する金融面での動きと、消費者にもたらす不利益を防止するための広告や表示に関する規制の動きがあります。欧州や米国では、任意のガイドラインを越えて法令や事実上の規範となるルールの整備が進み、行政処分や司法処分の事例が蓄積されてきています。
また司法の場での動きとして、気候変動によって基本的な人権が侵害されたことの責任を争う気候訴訟が、オランダやドイツ、米国などで広がっています。少しずつですが、実際に企業の責任を認める判決も出始めています。
日本におけるグリーンウォッシュへの対応
日本におけるグリーンウォッシュの規制としては、景品表示法において、実際よりも著しく優良・有利と見せかける表示を禁止する優良誤認表示規制が定められています。2022年12月には、釣りエサやストローなどで「生分解性」を主張するプラスチック製品について、主張の裏付けを証明する合理的根拠のある資料が示されなかったとして、10社に行政処分が出されました。
一方で、景品表示法の対象は商品・サービスに関する広告であり、企業広告には適用されません。そのため、JERAのケースでは、広告の自主規制機関に対して申し立てがなされました。
さらに司法による対策は、日本においてはまだまだハードルが高いのが実状です。石炭火力発電の差し止めを求める訴訟も複数起きていますが、訴えを起こす資格となる原告適格を認めない判断が相次いでいます。
そうした中、日本弁護士連合会による人権救済申し立ての制度を活用した取り組みも見られます。人権救済アクションでは、気候変動による被害の実態を調査し、法的根拠を持って日本政府に対して勧告が行われることを目指しています。
企業はグリーンウォッシュにどう向き合うか
グローバルに事業を展開する企業にとっては、グリーンウォッシュへの対応はすでに他人事ではありません。国内を中心に事業を行う企業の感度は高いとは言えませんが、遅かれ早かれ、取り組みが求められるようになるでしょう。
私たちも、各地域における最新の法規制の動向や訴訟事例の調査をしたい、グリーンウォッシュ防止の観点からの情報開示・コミュニケーションに対するアドバイスが欲しいといった相談を受けることがあります。ご支援をする中で感じるのは、取り組みの本質からずれないことの重要性です。先行する地域の状況や違反事例をしっかり押さえることは必要ですが、それ自体がグリーンウォッシュかどうか、法令違反かどうかの最終的な判断は司法の場などでなされることであり、企業が取り組むべきは、その前段階でそうなる可能性を事前に潰せるよう、企業経営のあり方を見直していくことです。
具体的には、表現や表示方法の曖昧さの排除や十分な科学的な裏付けといった、グリーンウォッシュを避けるための原則を企業活動に組み込みんでいくことや、ウォッシュの可能性がないか?というアンテナが立ち、違和感を指摘できる仕組みと風土を構築することが重要です。そしてこれは、「人権侵害かどうか」に関心がいきがちな、ビジネスと人権の領域においても同様のことが言えます。
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(Thumnail photo by David Pisnoy via Unsplash)